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まだ夜の寒さが残るリビング。俺は真ん中に立たされていた。周囲をぐるりと囲むのは兄弟姉妹と、その友人たち。ざっと十人近い。誰も座らず、立ったままこちらを見下ろしている。視線が重く、逃げ道を塞がれているのが分かった。
「開廷しまーす」
兄の晃司が片手を高く挙げ、芝居がかった声を響かせた。
「本日の被告、遥。罪状は――存在がうざいこと、家族の面汚しであること。異論ある奴?」
笑いが起きる。
「異論なし!」
「満場一致!」
友人たちの声が重なり、俺の耳に突き刺さる。心臓が早鐘を打った。
「ねえ、何か言ったらどう」
怜央菜が一歩近づく。視線は笑っているのに、目だけが鋭くて息が詰まる。
「べ、別に……」
声が震える。
「は?聞こえない。もっとはっきり」
肩をぐいと押され、俺はよろけてソファに膝をついた。
「被告は黙秘か。反省の色なしだな」
晃司が鼻で笑う。
「言い訳しても無駄だよ、全部お前のせい」
沙耶香の冷たい声が背中を刺した。
背後から、弟の颯馬が背中を小突く。
「立ってろよ。座る許可出てねえだろ」
俺は慌てて立ち上がる。足が痺れて感覚が鈍い。
「じゃあ、量刑決めようぜ」
晃司が口元を歪めた。
「家の掃除を明け方まで。飯抜き。風呂もなし」
「賛成ー!」
友人たちが手を挙げて笑う。
怜央菜が俺の顎を指で上げ、低い声でささやいた。
「わかってる?これ全部、自分のせいだから」
喉の奥で言葉が絡まった。俺が悪い。分かってる。
「……俺が……悪い」
自然と口をついて出た言葉に、また笑いが起きた。
「よし、認めたな」
晃司が満足げに頷く。
「じゃ、償いのために黙って働けよ。逆らったらもっときつくする」
誰かがわざとらしく手を叩いた。
「はい解散。裁判終了」
笑い声がリビングに残響する中、俺は立ち尽くした。
床の冷たさが足裏から上がってくる。
心臓がやたらと速いのに、体は鉛のように重い。
反論も怒りも浮かばない。ただ「俺が悪い」と、同じ言葉が頭をぐるぐる回る。
それが終わりを告げる鐘のように、静かに胸を打った。