テラーノベル
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#読み切り
ドアが開く。
「……失礼します」
「どうぞ」
相談者は入ってきて座る。
今日は少し言いづらそうだ。
「変な相談かもしれないんですけど」
日下部は首を振る。
「続けて」
相談者は少し黙る。
「自分だけ青春できてない気がして」
日下部は目を向ける。
「周り見てると」
相談者は続ける。
「放課後遊びに行ったり、文化祭で盛り上がったり、恋愛の話してたり」
視線が落ちる。
「なんか、ちゃんと高校生やってるんです」
少し間。
「でも俺、学校行って帰って終わりみたいな日ばっかで」
短く息を吐く。
「思い出作れてる感じしないんです」
日下部は少し考える。
「青春って、何だと思う」
相談者は止まる。
「え」
「今言ったやつ?」
「……たぶん」
日下部は小さく頷く。
「そのイメージ、だいたいSNSと漫画とドラマでできてる」
相談者は少し笑う。
「まあ、そうかもしれません」
「文化祭で全員最高の思い出作ってるわけじゃない」
短く言う。
「え」
「班決めで終わるやつもいる。人間関係で疲れるやつもいる。恋愛どころじゃないやつもいる」
相談者は黙る。
「でも楽しそうに見えます。見える場面しか見てないから」
短く言う。
少し沈黙。
「あと」
日下部は続ける。
「青春って、後から名前つくこと多い」
相談者は顔を上げる。
「後から?」
「当時は普通の日だったのに、卒業してから思い出になるやつ」
相談者は考える。
「例えば?」
「くだらない話した昼休みとか。毎日同じ時間に会ってたやつとか。テスト前に騒いで怒られたとか」
短く言う。
「その時は別に特別じゃない」
相談者は黙る。
「自分、青春ってイベントだと思ってました」
「そう思うやつ多い」
短く返る。
「でも実際は」
日下部は続ける。
「普通の日の割合の方が圧倒的に多い」
相談者は少し笑う。
「なんか安心しました」
「焦る必要はない」
短く言う。
「“今この瞬間が青春か確認する作業”始めると、逆に楽しめなくなる」
相談者は黙ったあと、小さく頷く。
立ち上がる。
ドアの前で止まる。
「思い出って、作るものだと思ってました」
「気づいたら残ってるものかもしれないな」
短く返る。
ドアが閉まる。
青春できているかどうかは、その最中より、少し後になって分かることが多い。
コメント
1件
うわ、これ沁みたなあ……。青春=イベントって思い込み、僕もあったな。「当時は普通の日だったのに卒業してから思い出になる」って台詞、すごく腑に落ちた。文化祭で消耗してるやつもいるって現実をちゃんと書いてるところが本当に好き。イベントじゃなくて、気づいたら残ってるのが思い出なんですね。