「ほら、こっち向けよ」
「歩き方、もっと女みてぇにしろ」
俺は顔を伏せ、必死に無言で歩く。だが、群れの中の視線は容赦なく、俺の恥ずかしさをひとつずつ摘み取るように絡みつく。
「おい、反応してんぞ」
「声、出せよ」
微かに出てしまう「あ……」という声に、誰かが手を叩いて笑う。
「おお、震えてる。面白えな」
一人が足を止めて、俺の服の裾を引っ張る。バランスを崩しそうになりながらも、俺は踏ん張る。奥でくすぶる違和感が体を支配し、小さな声がまた漏れる。
「ん……」
「 ほら、出たぞ」
「あはは、もっと声出せよ」
街灯の下、俺の姿は彼らの娯楽にされていた。歩くたびに囃し立てられ、指さされ、笑われる。俺は必死に前を向こうとするが、心も体も削られ、反応は止められない。
「ちょっと待て、そこに立て」
「うわ、震えてるぞ」
集団は俺の足を止め、軽く押し、さらに嗤う。身体の奥の違和感と羞恥が絡み合い、思わず小さく喘ぎを漏らす。
「お、声出た。ほら、もっと見せろよ」
「やべえ、震えてる、触りてえな」
誰かが手を伸ばし、俺の肩や背中を軽く押す。体は硬直し、逃げたくても逃げられない。集団の空気そのものが、俺を追い詰める。羞恥、恐怖、痛覚——すべてが絡まり、息をするのも苦しい。
「さあ、前に進めよ」
「もっと反応見せろ」
小さな声は嗤い声にかき消され、俺の存在は晒し者として完全に支配される。必死に耐え、足を動かす俺の姿は、彼らの娯楽として回り続けた。
町中での地獄は、まだ終わらない——。
群れに押され、俺は一瞬立ち止まった。手は震え、胸はざわつく。周囲に誰もいない、と思った瞬間、視線を感じる。通りすがりの人々が、足を止めて俺を見ている。
「え……えっと……」
かすかに声が漏れる。自分でも止められない小さな喘ぎ。その声に、一人の通行人が眉をひそめ、もう一人は口元を隠して笑う。
「……なにあれ」
「すごい……見ちゃだめかな」
囁きや笑い声が耳に届くたび、心臓が跳ねる。俺は前に進もうとするが、足が重い。身体の奥でじわじわと痛む感覚が絡まり、耐えようにも耐えられない。
「……いやだ……」
視線は一方的に、俺の羞恥を抉る。群れがいなくても、世界全体が俺の存在を監視しているようで、逃げ場がない。
「あ……ごめんなさい……」
小さな声は、自分の存在を必死に消そうとするようなつぶやきになった。誰かの手が届くわけでもない。けれど、通りすがりの笑いや視線だけで、体は硬直し、全身の神経が締めつけられる。
「ほんと……かわいそう」
通行人のひとりが遠巻きに呟く。俺はそれを聞き、羞恥と自己否定がぐるぐると絡まる。必死に前を向こうとしても、心はすでに踏み潰されていた。
群れに押される日常ではない、通りすがりの人間たちの無関心な視線も、俺の羞恥と孤独をさらに深く抉った。足は重く、呼吸は苦しい。けれど、逃げられない——俺の存在は、世界のいたずらに晒され続ける。
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