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翌十九日の朝、花屋の裏口には、買い足すはずだった資材の一覧が紙一枚の上で止まっていた。名札用の紙、焼き菓子の包装袋、会場案内の立て札、追加のロープ、雨天時の足場板。必要な物は増えているのに、使える金額の欄だけが細いままだった。
オブラスが帳簿を開き、鉛筆の先で数字をなぞる。
「このまま全部そろえると、前夜祭の前に現金が足りなくなります」
「足りなくなる前に、足りる話をしようじゃないか」
ノイシュタットが机に身を乗り出した。
「話で紙や板は買えません」
「だが、人は動く」
「動いた人に払う金も必要です」
最初はいつもの応酬だった。ところが今日は、どちらも引かなかった。
「派手に見せるところを削ればいいんですか」
ノイシュタットの声が少し固くなる。
「そう言っていません。削る順番を決めると言っています」
「順番を決めるうちに、客の熱は冷める」
「熱だけで継続した店はありません」
店の空気がきしんだ。バケツの中で、仕入れたばかりのりんどうが細く揺れる。ハヤは二人の間に何か言葉を差し入れようとしたが、ちょうどいい形にならない。
ハルミネが口を開きかけ、やめた。ジョンナは資料の束を抱えたまま視線だけを落とす。エルドウィンは入口で運び込んだ板を持ったまま立ち尽くした。
そのとき、店の外で、しゃっ、しゃっ、と規則正しい音がした。
エフチキアが朝の掃き掃除をしていた。何も知らないわけではない。聞こえているはずだ。それでも、いつも通り、石畳の端にたまった葉を集め、昨日誰かが落としたレシートを拾い、店の前をきれいにしていく。
「毎朝やるって決めたので」
誰に聞かれたわけでもないのに、彼女はそう言った。
「人が来た時、入口が汚いと嫌ですし」
その一言が、変に効いた。
オブラスは鉛筆を置いた。
ノイシュタットは額を押さえたまま、ゆっくり椅子へ座る。
「……失礼しました」
先に言ったのはノイシュタットだった。
「僕は、焦ると飾りから守ろうとする悪癖がある」
オブラスも短く頭を下げる。
「私も言い方が硬すぎました。必要なのは削減ではなく、組み替えです」
ハヤはようやく息を吐いた。
「じゃあ、今日は順番を決めましょう。全部捨てるんじゃなくて、今いる物で回せる形に直す」
エルドウィンが持っていた板を肩から下ろす。
「足場板は会社の端材で足りる分がある」
ハルミネがすぐ続けた。
「布は、前の試作品をほどけば半分使える」
ジョンナも資料を置いた。
「案内文は印刷を減らして、手書きと掲示を混ぜます」
小さな修正が、少しずつ場を元に戻す。
外では、エフチキアが掃き集めた葉を袋へ入れ終え、ほうきを壁へ立てかけた。
「はい、入口きれいです」
その報告に、誰からともなく笑いが漏れた。大きな解決ではない。けれど、店の朝がようやく朝の顔へ戻った。