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白山小梅
翌日の夕方、仕事を終えた七星は、看護師の一人に呼び止められた。
由希の取り巻きの看護師だ。
「七星さん、悪いけど特別室の大迫様のところへ行ってもらえる?」
すでに終業時刻を過ぎていたため、七星はそっけなく答える。
「申し訳ありません。もう終業時刻を過ぎてますので」
「あら、やだ。看護師は残業なんて当たり前なのに、助手の人はこれだから嫌だわ~。患者様がどうしてもと言ってるのに、言うこと聞けないわけ?」
そのきつい口調に、七星はうんざりしながらも返事をした。
「分かりました。今から行ってきます」
「どうせ行くんだったら、口答えなんてしてないで最初からそう言えばいいのに……」
不機嫌そうに吐き捨てると、看護師はプイと横を向いて立ち去った。
七星は一度ロッカーへ寄り、用意していた見舞いの品を手にしてから特別室へ向かった。
大迫は激しい頭痛で入院したが、検査の結果、特に異常はなかった。
診断は、おそらく日常の不摂生――飲酒、睡眠不足、ストレスによる季節性の群発頭痛だったのだ。
治療は特にないので、近々退院する予定だ。
七星がキャバクラで働いていた頃、大迫には何かと世話になった。
その恩返しのつもりで、七星は見舞いの品を渡そうと思っていた。
病室の前に着き、ドアをノックすると、大迫の声が返ってきた。
「どうぞ~」
「失礼します」
「おーっ、やっと来てくれたね、リリちゃん……じゃなくて、七星ちゃん!」
「すみません。来るのが遅くなって」
「いーのいーの、ほら、座って!」
大迫はベッドから起き上がり、ソファへ七星を促した。
「何飲む? もう仕事終わったんだろう?」
そう言って、大迫は冷蔵庫に隠していた赤ワインを取り出した。
七星は慌ててそれを制した。
「赤ワインなんて、ダメですよ」
「ダメ? なんで?」
「だって、大迫さん、群発頭痛なんでしょう?」
大迫は目を丸くし、「ああ」と照れたように笑った。
「そうそう。大げさに特別室に入院なんかして、結局診断は“群発頭痛”だもんなー。いやあ、なんか恥ずかしいよ」
「恥ずかしくなんてないです。群発頭痛、私も昔一度なったことがあるから」
「七星ちゃんも?」
「はい。祖母が亡くなったあと、いろいろストレスが重なって……。それもあって、お店を辞めたんです」
「そういうことだったのか」
大迫は深く頷き、赤ワインを冷蔵庫へ戻した。
「じゃあ、コーヒーにしよっか」
「あ……よかったら、これを」
七星は手にしていたハーブティーを差し出した。
このハーブティーは七星の手作りだ。
庭で摘んだカモミールやミントを乾燥させ、ひとつひとつティーバッグに詰めた手作りのものだ。
「それは?」
「ハーブティーです。私が作ったものなので、無農薬無添加ですよ」
大迫は少し驚いたように目を見開いた。
「へぇ……。七星ちゃん、ハーブティーまで作るのか」
「はい」
「そういや、店でも手作りのクッキーやケーキをよくごちそうになったなあ。どれも美味しかったのを覚えてるよ」
「ありがとうございます。あ、お茶は私が入れますね」
七星はミニキッチンへ向かい、カップを二つ用意してティーバッグを入れ、お湯を注いだ。
「カフェインの取りすぎもあまりよくないので……ハーブティーならいいかなと思って。リラックス効果もありますし」
「俺、今までハーブティーなんて飲んだことがないよ」
大迫は七星からカップを受け取ると、一口飲んだ。
「爽やかだ……それに、香りもいい……」
「心が落ち着くと体もリラックスするので、頭痛も徐々に減ると思います。だから、お酒やカフェインは控えめにして、少し生活を見直した方がいいかも」
「あれ? 七星ちゃん、なんか看護師さんみたいだなあ」
大迫が参ったように言うと、二人は目を合わせて笑った。
――その頃、ナースステーションでは、由希と後輩看護師たちが、ニヤニヤしながら小声で話していた。
「作戦はばっちり?」
「うん。もう特別室にいると思う」
「じゃあ今ごろ、アンアン言いながら御曹司にヤラれちゃってるの~?」
「キャ~、激しすぎて声が廊下に漏れたらまずくない?」
「まんまと引っかかったわね。あとはこの情報を院長や尾崎先生に流して、キャバ嬢が特別室から出てくるところを押さえれば完璧!」
「病院をラブホ代わりに使ってるなんて院長が知ったら、さすがにクビよね」
「それにしても、元水商売の女って、ふしだらでや~ね~。病院でそんなことするなんて、私耐えられなーい」
「ざまあみろだわ。あ~、このあとが楽しみ~」
その会話を聞いてしまった新人ナースの川奈は、青ざめた表情でその場を静かに離れた。
悶々としながら廊下を歩いていると、院長の野中とすれ違う。
「お、川奈さん、お疲れ! もう仕事には慣れたかな?」
「お、お疲れ様です……」
「あれ? 顔色が悪いね。大丈夫?」
野中の優しい声に、川奈の緊張の糸がぷつんと切れ、涙があふれた。
「か、川奈さん。え? どうした? 何かあったの?」
「実は……」
そこへ、ちょうど優人も通りかかった。
「あれ? 先輩、どうしたんですか?」
泣いている川奈と院長を見比べ、優人が驚く。
「いや……彼女、突然泣き出しちゃってさ……。川奈さん、ちょっとこっちにおいで。話を聞くから」
「ううっ……すみません……」
「気にしなくていいから。あ、優人、お前も来てくれ。時間あるだろう?」
「分かりました……」
三人は、外来が終わって人気のなくなった処置室へ入っていった。
コメント
17件
おはようございます。情けない看護士さんよね( -_・)?
由希とその仲間達…とんでもない性悪揃い( ꐦ ・֊・ )早くこの企みがバレて、 病院を去って欲しい.... 新人ナースの川奈ちゃん、びっくりしちゃったね🥲︎こんな先輩のいる病院で働くの辛いよねー😣院長に全て話して、企み阻止して欲しい💦 群発頭痛、辛い💦私もなったことあるので…大迫さんお酒はダメよ🤣 (`・д・)σ めっ! 七星ちゃんの優しいハーブティーに癒されて、気持ち和んでそう🤭🫧
恐ろし職場ですね😨でも川奈ちゃん‼️全部院長に話してクリーンな職場に変えてもらいましょう そして七星ちゃんの方が由貴希より上手かな?ハーブティで大迫さんからの誘いを上手にかわして和やかに過ごしていて 院長と優人先生が飛び込んできても何も慌てる事なく過ごしていそうですね