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白山小梅
新人看護師・川奈から一部始終を聞いた優人は、勢いよく椅子を蹴るように立ち上がり、そのまま部屋を飛び出した。
全力で走り去る優人の背中を見送りながら、野中は特別室の鍵を取りに向かい、すぐに後を追った。
野中が追いついたとき、優人は息を切らしながら特別室の前に立っていた。
その形相はすさまじく、七星を案じるあまり顔が強張っている。
野中はそんな優人に声をかけた。
「鍵、持ってきたぞ」
「……じゃあ、開けますよ」
優人がドアノブを回すと、鍵はかかっておらず、あっけないほど簡単に開いた。
そして、扉が開いた瞬間――七星と大迫の楽し気な笑い声が室内に響いた。
鬼の形相で飛び込んできた二人を見て、大迫は目を丸くした。
「あれ~? お二人とも、どうしたんですか?」
想像していた光景とはまるで違う状況に、優人と野中は茫然と立ち尽くす。
目の前には、ソファに向かい合って座り、お茶を飲みながら談笑する七星と大迫の姿があった。
次の瞬間、優人は七星のもとへ駆け寄り、声をかける。
「遠坂さん、大丈夫?」
その問いに、七星は目を見開いて答えた。
「大丈夫って、何がですか?」
首をかしげる彼女の横で、大迫がにやりと笑った。
「やっぱり……思った通りだな」
その言葉に、野中が眉をひそめる。
「大迫さん、思った通りとは?」
「いや……尾崎先生の“気持ち”ですよ」
「“気持ち”?」
「入院したときからピンときてました。尾崎先生は七星ちゃんのことが好きなんだなって」
にこにこと言う大迫の言葉に、今度は七星がハッとした表情を浮かべた。
一方、野中は状況を面白がるように穏やかに微笑んでいる。
当の優人は顔を真っ赤にし、話題をそらすように慌てて口を開いた。
「と、とにかく……二人はここで何してたんですか?」
「何をって、七星ちゃんお手製のハーブティーをいただきながら、俺の“恋バナ”に付き合ってもらってたんですよ」
「「恋バナ?」」
今度は野中も驚き、優人と同時に声を上げた。
「いや、実はですね……七星ちゃんが店を辞めた後、ナンバーワンになった娘がいるんですが、今、俺はその子にすっかり夢中でしてね。で、元ナンバーワンの七星ちゃんに、どうやって彼女を攻略したらいいかアドバイスしてもらってたんです」
続いて、七星が微笑みながら言った。
「ふふっ、そうなんです。大迫さんったら、思春期の高校生みたいに“どうアタックしたらいいか分からない”なんて言うから、つい笑っちゃって」
「こらこら、そこは笑うとこじゃないでしょ。大の大人が恥を忍んで真面目に相談してるんだから」
「あっ、そうでした」
二人は顔を見合わせて笑った。
「七星ちゃんが店にいた頃、俺はもう彼女にぞっこんで、何度もアタックしたんですが、まったく相手にされなくてね。でも、あのとき振ってくれたおかげで今の彼女と出会えた……そう思ってるんです。だから七星ちゃんは、俺にとっての“恋の師匠”みたいなもんなんですよ」
「師匠は言いすぎです。恋のキューピッドくらいがいいな」
「あはは、そうだね」
また二人は楽しそうに笑った。
笑いが収まると、大迫は急に真面目な表情になり、院長の野中に向き直った。
「院長。ここの看護師さんたち、どうにかした方がいいですよ」
突然の言葉に、野中はすぐに反応した。
「やっぱりそう思いますか?」
「はい。俺を焚きつけてきた平子とかいう看護師、それとその取り巻き。彼女たちの悪だくみを知って、二人は慌ててここに来たんですよね?」
すべて見抜いているような大迫の言葉に、野中は観念したように頭を下げた。
「不快な思いをさせて申し訳ありません。で、彼女たちは大迫さんに何と?」
「今日の夕方、七星ちゃんを部屋に送りつけるから“やっちゃえ”ってね。彼女が言うには、七星ちゃんが俺に”抱かれたがってる”らしいです」
その言葉に、七星は目を見開いて慌てて否定した。
「私、そんなこと言ってません!」
「もちろん分かってるさ。七星ちゃんはそんな子じゃないってことくらい。だから逆に、あのいけ好かない看護師たちを陥れるために、あえて“乗ったふり”をしたんだよ。もし院長たちが来なくても、後で報告するつもりだったんだ」
大迫の説明を聞き、優人と野中はほっと息を吐いた。
「大迫さん、ありがとうございます。とんでもない悪だくみに巻き込まれただけでなく、病院の今後のことまで考えてくださって……本当に感謝します。彼女たちには厳しい処分を検討しますので、どうかお許しください」
野中の申し出に、大迫はにっこりと微笑んだ。
「うん。もちろん院長を信じてます。それに、七星ちゃんみたいないい子が、あんな女たちの悪だくみに利用されるなんて許せないからね。そこんとこは、きっちり落とし前つけてやってくださいよ」
「重々承知しました」
野中は深く頭を下げた。
すると、大迫は今度、優人に向かって言った。
「尾崎先生がものすごい勢いで走ってくる足音、聞こえましたよ」
優人は気まずそうに頭を下げる。
「お騒がせして、申し訳ありませんでした」
「いえいえ。お姫様を助けに来たヒーローみたいで、なかなか素敵でしたよ。その調子で、これからも七星ちゃんのこと、守ってあげてくださいね」
「……は、はい」
その言葉に、今度は七星が顔を赤らめた。
大迫はそんな七星に向かって言った。
「七星ちゃん。素敵なお見舞いの品をありがとう。とっても美味しかったよ」
「それならよかったです……」
「それと、七星ちゃんにも俺からアドバイスを一つ」
「?」
「“自分の気持ちに素直になること”。これが、俺から君へのアドバイス!」
「…………」
七星はその言葉の意味がつかめず、返事に困ってしまう。
「まあ、じきに分かるさ。もしそのときは、今日の俺の言葉を思い出して」
「……はい」
「素直でよろしい!」
大迫は満足げに微笑んだ。
場の空気がすっかり和やかになると、野中が口を開いた。
「では、私たちはこれで失礼します」
「あ、七星ちゃんはあと小一時間ほどで解放しますから、よろしく~」
「承知しました」
二人はドアの前で軽く頭を下げ、ほっと息をつきながら特別室をあとにした。
コメント
36件
やはり!大迫さん、良い人でしたね…🍀 彼女と上手くいきますように…💓
大迫さん、良い人😊グッジョブ👍
騙された…… えっと、以前クソ大迫と発言した自分を今から殴りにい行こうか~と思います…👊 いやぁー、なんて良い人だったのか……🥺 院長、この特別室の患者様の貴重なご意見。しっかり対処お願い致します🙇♀️