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四ヶ月半後――
二人の結婚式が盛大に執り行われた。
日本を代表する西園寺財閥の御曹司と、メガバンク頭取の娘という華やかな組み合わせに、式場の外にはテレビカメラやマスコミが押し寄せていた。
イケメン御曹司と美しい頭取令嬢――
ウエディングドレスに身を包んだ沙夜の姿は誰もが羨むほど絵になり、二人の晴れ姿はファッション誌にも取り上げられた。
本来なら挙式は一年後の予定だったが、沙夜の妊娠が急に発覚し、“お腹が目立たないうち”にという理由で、この日に前倒しされたのだった。
世紀のカップルの結婚に加え、新しい命の誕生という話題も重なり、世間の熱狂はさらに加速していく。
しかし、報道が“幸せの絶頂”と騒ぎ立てる一方で、沙夜の心は重く沈んでいた。
妊娠を告げたあの日から、二人の関係はどこかぎくしゃくし始めていたからだ。
式までの間、沙夜は司とまともに会話することすらできなかった。
世界中を飛び回る司はほとんど日本におらず、帰国しても国内出張が続き、デートをする余裕などなかった。
婚約指輪を受け取るために一度だけ夕食に誘われたが、二人きりで会ったのはその一度きりだった。
もちろん、結婚してからも同じような日々は続いた。
身重の沙夜のために司は家政婦を雇ってくれたが、家事をする必要がなくなったことで、逆に“妻としての役割”を失ったように感じ、沙夜はただ退屈な毎日を過ごすばかりだった。
――そして、式を終えて数ヶ月後の夜、沙夜は親友と電話をしていた。
「今日も司さん帰ってこないの?」
「うん、今ごろサウジアラビアかな」
「へぇ、すごいね。御曹司自ら海外を飛び回っているなんて」
「戦争の影響で、エネルギー事業が特に大変らしいの」
「そうだよねぇ。あの戦争もなかなか終わりそうにないし……。ところで、つわりはどう?」
「それが、あんまり食欲なくて……」
「そっかー。じゃあ、美味しい梅干し送ってあげる」
「梅干し?」
「うん。私も息子のときつわりがひどくて、梅干し茶漬けばかり食べてたんだよ。紀州のすごく美味しいやつ」
「ありがとう。すっぱいもの食べたいから嬉しいよ」
幼稚舎時代からの親友・藤木香織の優しさに、沙夜は胸がじんわりと温かくなった。
電話を切ると、沙夜はほうっと息を吐き、窓辺へ歩み寄った。
港区の一等地にそびえるタワーマンション最上階――。
そこから見下ろす煌びやかな夜景には、いまだに慣れない。
むしろ、その景色が美しければ美しいほど、自分だけがこの世界に取り残されているような孤独を感じる。
本来なら誰もが憧れるはずの景色が、今の沙夜にはただ辛いだけだ。
――何のために結婚したんだろう。
沙夜にとって、今の結婚生活は苦痛でしかなかった。
結婚してからも司はどこかよそよそしく、他人行儀だ。
特に妊娠が分かってからは、さらに距離ができたように感じる。
彼は妊娠を喜ぶどころか、どこか戸惑っているようにすら見えた。
すべてが想像と違っていた。
結婚はもっと心が浮き立ち、毎日が輝くものだと思っていた。
しかし現実は、沙夜にとって拷問のような日々だった。
それでも、父を二度と悲しませたくないという思いから、沙夜は孤独に耐え続けていた。
そんなある日、後輩の梨花からランチに誘われた。
退屈な日々を送っていた沙夜にとって、それは救いの誘いだった。
「先輩、久しぶりです~! わあ、お腹大きくなりましたね」
沙夜のふっくらしたお腹を見て、梨花は微笑んだ。
「つわりは大丈夫ですか?」
「ええ、なんとか」
「和食なら食べられるかなと思って、この店にしたんです~」
「ありがとう。日本食だと助かるわ」
「で、結婚生活はどうですか? 日本一の御曹司とのタワマン生活は!」
興味津々に尋ねる梨花に、沙夜は笑顔で答えた。
「うん、まあ……なんとかやってるわ」
不満を口にするのは親友の香織だけと決めていた沙夜は、表情を崩さずに返した。
「そっか~、ラブラブなんだ! それなら心配ないのかな……」
「心配ないって……何かあったの?」
「あ、いえ……大したことじゃないですから……」
「え~、何? 気になるから教えてよ」
沙夜が促すと、梨花は困ったように微笑む。
そして、少しためらいながら携帯を取り出し、一枚の写真を沙夜に見せた。
その瞬間、沙夜の心臓が凍りつく。
写真には、司と美しい女性が腕を絡め、親しげに歩く姿が写っていた。
二人とも満面の笑みで、女性は司に甘えるようにもたれかかっている。
誰が見ても親密な関係だと分かる写真だった。
「こ、これは……?」
「先週、銀座で見かけたんです。気になったので、証拠に撮っておこうと思って……」
「……証拠?」
「もし先輩が離婚訴訟とかになったら使えるかなって」
突然の“離婚”という言葉に、沙夜は息を呑んだ。
「離婚なんて……するわけないじゃない」
「えーでもぉ、ご主人、浮気してるかもしれないんですよ?」
「そ、それは……そうかもしれないけど……でも、離婚なんてしないわ」
沙夜の言葉に、梨花は不満げに眉をひそめた。
「政略結婚だからって、夫の浮気を我慢する必要なんてないですよ。それじゃ先輩が可哀想すぎます!」
沙夜は静かに首を振った。
「でも、これから子供が生まれるのよ。離婚なんてそう簡単にはいかないわ。それに、その写真だけで浮気とは決まったわけじゃないし」
「えー、でもこの雰囲気、私は黒だと思うなあ」
沙夜が黙り込むと、梨花はさらに続けた。
「実はこの写真を撮ったとき、三国さんと一緒だったんです」
思いがけない名前に、沙夜の胸が跳ねる。
「三国さんと?」
「はい。記念品を買いに行くのに付き合ってって言われて。で、三国さんも驚いてました。男性の目から見ても黒だって言ってましたよ」
「……」
仕事ができ、信頼していた怜央の言葉だけに、沙夜の胸がざわついた。
「だから、ちゃんと調べたほうがいいですよ。三国さんも言ってました。沙夜先輩がひどい目に遭うのを黙って見ていられないって」
「三国さんが……そんなことを?」
「はい。やっぱり三国さん、沙夜先輩のことが好きなんだと思いますよ」
結婚前、梨花に何度もそう言われたことを思い出す。
まさか本当だったとは思わなかった。
そして、怜央が結婚後の自分を心配してくれていると知り、沙夜の胸は痛んだ。
「先輩、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫よ。とにかく、このことは自分でなんとかするから。教えてくれてありがとう」
「それならいいですけど、何かあれば言ってくださいね。あ、念のため、この写真、先輩に送っておきますね」
「ありがとう……」
沙夜は動揺を隠しきれないまま、上の空で返事をした。
コメント
14件
世紀の結婚に見えて中身が無い結婚‼️沙夜ちゃん誰にも本当の事言えなくて心がボロボロボロなのに司の浮気⁇の写真見せられてこの後どうなるのかな😢このまま出産なんて辛すぎる😢
え、どういう事💦😢 辛い展開、、、😢
なんで避妊もせず⁉️に行為に及んだのか理解に苦しむよー、司さん こどもができてうれしくない?政略結婚でも愛は表現しないと❗️ そして梨花の写真と三国の言葉を今の沙夜ちゃんに突きつけたらそりゃ不安になるし、わざとそうしてる⁉️ 八方塞がりの沙夜ちゃん、さぁどう動く??