そして月日は流れ、栞は大学二年生になった。
栞が大学に合格してからこれまでの間、彼女の身の回りには大きな変化が訪れていた。
合格発表の直後、栞は念願の一人暮らしを始めた。
栞が慶尚大学に合格したことを、父が家族に話したのは栞の引越し後だった。
それを聞いた義理の母・弘子は、「おめでとう」と父に言ったようだが、その言葉はうわべだけだったようだ。
一方、義理の姉・華子は、むっとした顔をして無言で二階へ行ったようだ。
彼女にとって、その知らせはプライドを深く傷つけるものだったのかもしれない。
父は再婚後、華子に対して実の娘のように接しようと努力してきた。しかし、今回栞の合格を心から喜べない華子の態度を見て、ひどく落胆したようだった。
栞が大学に入学したあと、父は単身赴任先から世田谷の自宅へ戻った。
しかし、その後すぐにまた大きな変化が訪れることになる。
それは、父が弘子と離婚したことだった。
この件は、父からの事後報告だったため、栞はかなりの衝撃を受けた。
単身赴任から戻った父は、しばらくの間、弘子と華子と三人で暮らしていた。
しかしその生活の中で、父は密かに離婚の準備を進めていた。
父が離婚を決意したきっかけは、弘子が栞の学費に手をつけていたことだった。
父が学費を振り込もうとした際、口座の残高が空っぽになっていることが発覚したのだ。
栞の大学費用として貯めていた金は、すべて弘子によって使い込まれていた。
そのことに気づいた父は、すぐに興信所に調査を依頼した。
調査の結果、弘子がその金を使って頻繁にホストクラブへ通っていたことが明らかになった。
彼女は、華子が通っていた私立の学校の派手なママ友たちと、日々贅沢な遊びを繰り返していたのだ。
弘子の行動は、それだけではなかった。
興信所の調査員は、弘子が若い男とラブホテルへ出入りする瞬間を写真に収めていた。
その相手は、一人ではなく複数いたようだ。
また、弘子が手をつけたのは栞の学費だけではなかった。
栞の亡き母が形見として残したジュエリーも、すべて弘子の手によって売り払われてしまった。
その話を聞いた栞は、大きなショックを受けた。
弘子は、栞の学費や形見のジュエリーを売った金で、華子にブランド物の服やバッグを次々と買い与えていた。
栞は、華子がバイト代では到底変えないような高価なブランド物を持っていた理由が、その時初めて分かった。
それと同時に、許せない気持ちでいっぱいだった。
なぜなら、弘子たちが湯水のように使った金は、栞の父が一生懸命働いて貯めた金だったからだ。
当然、栞の父も激怒していた。
自分の家をめちゃくちゃにされたうえ、実の娘をないがしろにされた父親としての怒りは、相当なものだった。
その後、父は興信所の調査報告書を持参し、弁護士とともに弘子の実家を訪れた。
弘子の実家は非常に裕福で、高級料亭をいくつも経営する名家だったため、娘が再婚先でホスト遊びや浮気を繰り返していたという噂が広まることを非常に恐れていた。
結果として、父の離婚の申し入れはすんなりと受理された。
さらに、弘子が使い込んだ金額についても、実家が弁済する意向を示したが、父はその申し入れを断った。
栞がその理由を尋ねると、父はこう答えた。
「子供たちのことを弘子に任せっきりにしていたのは事実だ。だから、少なからず俺にも責任があるんだよ」
そして父は、「学費のことは心配するな」と栞に言った。
父には、亡き母の保険金や父方の実家から受け継いだ不動産の家賃収入もあるため、経済面では問題はなかった。
父が弘子と離婚したことで、鈴木家はようやく平穏な日常を取り戻しつつあった。
しかし、栞には一つ気がかりなことがあった。緑山学院大学の四年生である華子が、サークル活動で時折慶尚大学へ顔を出していたからだ。
栞はキャンパス内で何度か華子を見かけたが、顔を合わせたくなかったので、すぐにその場を立ち去った。
しかし、この先またいつ彼女に出くわすか分からない。
自分の大学なのに、外部から来ている華子にビクビクしながら大学生活を送るのは理不尽な気もしたが、それもあと一年と思えば我慢できる。
とにかく、今は華子に会わないようにと細心の注意を払っていた。
離婚後、父は栞に頭を下げて謝った。
「父さんのせいで、栞に辛い思いばかりさせてごめんな」
「済んだことはもういいわ。今は一人暮らしで自由にのびのびと生活できているんだし」
栞は笑顔でそう答えたあと、『貝塚こころのクリニック』のことを父に話した。
栞はあのクリニックに行って救われたことや、直也のアドバイスのおかげで慶尚大生になれたこと。
そして、彼からもらった本がどれほど栞の心の支えになったかなどを、詳しく父に話した。
「彼が栞のすべての悩みを解決してくれたんだね」
父はそう理解してくれた。
その後、父は世田谷の家は売りに出した。もちろん、売却前に父は栞の許可を求めた。
あの家に残っていた母の思い出は、すべて弘子によって壊されていたので、栞は「好きにしていいよ」と言った。
家を売った資金で、父は同じ世田谷区内に豪華な4LDKのマンションを購入した。
その際、父は栞に一緒に暮らさないかと提案したが、一人暮らしの快適さに慣れてしまった栞は、その申し出を断った。
その代わり、頻繁に遊びに行くことを約束し、父を安心させた。
豪華な広いマンションを見て、栞はこんな風に思った。
(お父さんは、まだ働き盛りの50歳だもの。これからいい出会いがあるかもしれないし、だったら広くてもいいかもね)
そう考えながら、栞は微笑んだ。
現在、栞は週末ごとに父の元を訪れていた。そこで、一人暮らしで覚えた手料理を父に振る舞う。
今、二人は、誰にも邪魔されることなく、失われていた大切な時間を取り戻すのように、親子水入らずの楽しい時間を過ごしていた。
コメント
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お父さんがすんなり離婚できたのは良かったけれど....🤔 義母は ひとつも良いところが無く、最低ですね😱 大学でも 元義姉が関わってこないか、心配....😰
何事もなく大学生活を全うしますように🙏華子 栞ちゃんに近づくなよ〜
潔い父🪭 弘子と華子は最後まで家族ではありませんでしたね… 形見を勝手に売るなんてあり得ない💢