テラーノベル
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放課後の教室。
人は減っているのに、完全にはいなくならない時間。
帰るやつ。
残るやつ。
その間。
「残って」
声をかけられる。
理由は言われない。
でも、断らない。
教室の後ろ。
机が少し寄せられている。
逃げ道はある。
でも、使わない。
使えない。
「なあ」
一人が近づく。
距離が近い。
普通の会話の距離じゃない。
一歩、近い。
「今日さ」
「またやったよな」
何のことか分かる。
「……ごめん」
すぐ言う。
その速さに、小さく笑われる。
「ほら」
「それ」
「早すぎ」
肩に手が置かれる。
軽い。
でも、離れない。
「なんでそうなる?」
「何が?」
「すぐ謝るとこ」
「意味分かってんの?」
もう一人が背後に立つ。
気配だけで分かる。
逃げ道が、見えなくなる。
「顔上げろ」
言われる。
上げる。
すぐ目の前に、顔。
近い。
視線が逃げる。
「逸らすな」
顎を指で上げられる。
力は強くない。
でも、逃げられない。
「なあ」
「お前さ」
少し笑う。
「なんでそんなに“下”なんだよ」
周りが笑う。
呼吸が浅くなる。
距離が近いだけで、体が勝手に反応する。
過去と同じ。
家でも、学校でも、近づかれると、何かが起きる前触れだった。
「息、早くね?」
誰かが言う。
「ビビってる?」
「いや、いつもだろ」
笑い。
肩を押される。
後ろにぶつかる。
机。
逃げ場がない。
「なあ」
「落ち着けよ」
「何もしてないだろ」
その言い方が、逆に怖い。
何もしてないのに、この距離。
この空気。
胸のあたりを軽く叩かれる。
トン、と。
「ここ、動いてるな」
「当たり前だろ」
「緊張しすぎ」
笑い。
遥は言う。
「……大丈夫」
声が少し震える。
「何が?」
「大丈夫って」
「誰も聞いてないけど」
笑い。
背後の気配が近づく。
完全に囲まれてはいない。
でも、動ける方向がなくなる。
「さっきさ」
「なんであの一言言ったの?」
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あも
「……分かんない」
「またそれ」
「便利だな」
「考えてから喋れよ」
「考えた結果それなら終わってるけど」
笑い。
距離がさらに詰まる。
視界が狭くなる。
呼吸が浅くなる。
頭がぼんやりする。
「なあ」
「聞いてんの?」
肩を軽く揺らされる。
焦点が戻る。
「……ごめん」
また言う。
「だからそれやめろって」
「意味ないって言ってんの」
「反省してるフリすんな」
言葉が強くなる。
でも、声は大きくない。
それが一番きつい。
静かなまま、逃げ場がない。
遥は思う。
今、何が起きてる?
殴られてない。
叫ばれてない。
でも、逃げられない。
体が小さくなる。
勝手に。
これ以上刺激しないように。
空気を乱さないように。
「なあ」
最後に言われる。
「お前さ」
少し間。
「存在、調整しろよ」
笑い。
離れる。
急に。
空気が緩む。
さっきまでの圧が消える。
「帰るわ」
「じゃな」
普通の声。
普通のテンション。
さっきの空気が嘘みたいに。
足音が遠ざかる。
教室に一人残る。
その場に立ったまま、動けない。
呼吸が戻るまで、時間がかかる。
胸が痛い。
何もされていないのに。
遥は思う。
さっきのは、何だった?
いじめ?
違う。
何もされてない。
ただ、近かっただけ。
囲まれただけ。
言われただけ。
でも、体は覚えている。
あれが、一番逆らえないやつだと。
机に手をつく。
少し震えている。
「……ごめん」
誰もいないのに、口に出る。
理由は分からない。
でも、謝っておけば、何かが収まる気がする。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 読了しました。第54話。 この空気感、すごくリアルで胸が痛かったです。 「何もされてないのに」って遥が繰り返すところが、一番つらい。 物理的暴力じゃなくて、距離と沈黙と視線だけで人を追い詰めるやり方、すごく丁寧に書かれてて…読んでるこっちの呼吸も浅くなりました。 「存在、調整しろよ」という言葉がずっしり重いです。 この後の遙の行方が気になります…。 連載続けてくれてありがとうございます。