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夜の窓を雨粒が打ちつける。
リビングの灯りが、濡れた庭の葉を淡く照らしていた。
陸はソファに横たわり、肩から汗が滴る。
「……陸、大丈夫か?」
湊は毛布をそっと肩にかけ、額に手を添える。熱は高く、体は震えていた。
「……平気だ」
返事は小さく、力のない声だった。
今日は放課後に些細なことで言い合いになった。
進路のことでぶつかり、互いに素直になれなかった。
そのまま、陸は帰宅後に熱を出したのだろう。湊は、胸の奥で少し責任を感じていた。
「水、飲むか?」
湊がコップを持って近づくと、陸は手を伸ばす。ぎこちなく、でもその手を湊は自然に握った。
「……ありがとう」
声がかすかに震える。
湊は何も言わず、ただコップを口元まで運ぶ。熱にうなされる陸の顔を見つめると、言葉よりも寄り添う行動が必要だと感じた。
雨の音と、二人の呼吸だけが部屋に響く。
「……寒くないか?」
湊は毛布をさらに肩に巻き、ソファの端に座る。
陸は目を閉じ、わずかに首を横に振った。
「……大丈夫」
でも肩は緊張している。
湊はその背中をそっと撫でる。
言葉は少ない。先ほどのケンカの余韻がまだ残るため、無理に謝ることも、慰めることもできない。
ただ、目の前にいる陸の体温を感じ、息遣いを聞きながら、そっと寄り添うだけだった。
「……湊、俺……情けねえな」
陸がかすれた声で呟く。
「……無理すんな。熱出したのは、俺も心配してるだけだから」
湊の声は低く、でも誠実だった。
陸は小さく笑う。微かで、ぎこちない笑み。
「……でも、看病してくれるんだな」
「当たり前だ」
湊は肩をすくめ、冗談めかして言う。だが目は優しい。
雨の音が徐々に部屋に染み込み、二人の間の沈黙は居心地の良いものに変わる。
言葉にせずとも、行動で伝わる気持ち。
陸の額にそっと手を添える湊の指先から、無言の安心感が流れ込む。
熱にうなされる陸の体を見つめながら、湊は心の中でそっと決めた。
「どんなにすれ違っても、今は傍にいる」
陸も目を閉じ、呼吸を整えながら、微かにその気持ちを感じているようだった。
夜は深く、雨はやまない。
けれど、二人の距離は少しだけ、確かに縮まっていた。
言葉よりも、触れ合いの温もりが、互いの心に静かに沁み渡る――そんな夜だった。