テラーノベル
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#成り上がり
#死に戻り
#ハッピーエンド
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昼前のしずくシェルターは、人の声で天井が少し低くなったみたいだった。モルリが屋台用の鍋を磨き、ホレが備品表を机いっぱいに広げ、ヌバーは通りかかった相手に片っ端から声をかけていた。
「誘ってるんですけど、誰かこの箱運んでくれません?」
「頼み方が軽いな」
「軽いほうが来やすいでしょ」
笑いが起きる。そんな中、サベリオは壊れかけた掲示板の脚を直していた。木片を押さえていると、すぐ横でデシアの声がした。
「その釘、三本目は少し斜め」
「え?」
「上から重みがかかると、そっちのほうが割れにくいから」
見れば、たしかに彼女の言う通りだった。サベリオが打ち直すと、掲示板はさっきよりずっと安定した。礼を言うと、デシアは「木の鳴り方が変わったから」とだけ言い、別の机へ向かった。
音でそこまでわかるのか。感心して見送っていると、ミゲロが肩でぶつかってきた。
「顔がわかりやすい」
「何が」
「何がって、今のだよ」
そこへアルヴェが資料の束を持って現れた。祭りの進行表と提出用書類、その説明を始める。満月の鐘まつりで行う音語りの映像を、デシアが都会の音響学校の特待生選考へ送る予定だと知ったのは、その時だった。
「本番の映像だけじゃなくて、事前の構成資料もいる。提出期限は祭りの直後だ」
アルヴェがそう言うと、場の空気が一瞬だけ張った。
「すごいじゃん」とモルリが言い、ヌバーは大げさに拍手した。
デシアは照れたように首を振ったが、その指先は紙の端を強くつまんでいた。
サベリオの胸の奥で、何かがまっすぐ立ち上がった。
この子の舞台を、ちゃんと鳴らしたい。
雨どいでも床板でも何でも直す。重い物は先に運ぶ。危ない場所は全部見て回る。人手が足りなければ自分が走ればいい。そう思うと、じっとしていられなくなった。
「必要なことがあったら、何でも言って」
つい口に出すと、デシアは少し困った顔をした。
「何でも?」
「うん。できることなら」
「じゃあ、明日の橋の下見で、風の抜け方を見たい。高いところが平気なら、欄干の内側だけ見てくれる?」
「任せて」
即答したあとで、ミゲロとモルリがにやにやしているのに気づく。
「任せて、だって」
「早いねえ」
「うるさいな」
ヌバーまで寄ってきて、面白がる目でサベリオをのぞきこんだ。
「それ、もう推し活の顔なんですけど」
「推し活って何だよ」
「推しが夢をかなえるために、裏で全部やる人の顔」
笑われた。けれど否定しきれなかった。
サベリオは工具箱を持ち上げ、次に直す場所を探しに歩き出した。胸の内側だけ、妙にはっきりしていた。
デシアの夢が町の春に乗るなら、自分はその足場になりたい。