テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「共通点を探すと、だいたい失敗する」
玲は、資料の山を前にそう言った。
淡々とした口調だが、言葉は重い。
「人に注目すると、余計な感情が混ざる」
燈が腕を組む。
「じゃあ、何を見るんだよ」
「残り方」
玲は即答した。
机の上には、二つの事件の資料が並んでいる。
連続失踪事件。
そして、不正事件。
一見、無関係。
担当部署も、時期も、関係者も違う。
だが――
「記録の“終わり方”が同じ」
玲は、指で書類の端を揃えた。
「どちらも、
調べ切った感がある」
真琴は、その表現に頷いた。
「やり残しがない、って感じだよね」
「はい。 不自然なほど」
澪が、小さく付け足す。
「普通、事件って
どこか歪むんです」
曖昧な証言。
食い違う時系列。
処理しきれない感情。
「でも、これは違う」
澪は、連続失踪事件のファイルを指す。
「“疑問が浮かぶ前に終わっている”」
燈が鼻で笑う。
「それ、優秀ってことじゃねえの」
「優秀すぎる」
玲は即座に返す。
「人間が関わってる事件で、
ここまで揃うのは珍しい」
真琴は、父の手帳の一文を思い出す。
――整っているものほど、疑え。
声に出さず、心の中で繰り返す。
「不正事件のほうは?」
「こちらも同じです」
玲が答える。
「内部告発者はいる。
証言もある。
でも、核心に触れる前で止まっている」
「止めた人間がいる?」
燈の問いに、玲は首を振った。
「違います」
少し間を置いて、続ける。
「“進まないように設計されている”」
室内が静かになる。
木津は、壁際でそれを聞いていた。
「設計、か」
低く呟く。
「警察内部で、そこまでできる人間は多くない」
真琴は、視線を向ける。
「でも、ゼロじゃない」
「……ああ」
木津は否定しなかった。
「だから久我は、踏み込まなかった」
「踏み込めなかった、じゃなく?」
「選ばなかった、だな」
木津の言葉は、どこか苦い。
「真実に触れた瞬間、
壊れる人間が見えたから」
真琴は思う。
父も、同じものを見たのだと。
だから、箱の中の手帳は途中で止まっていた。
だから、最後のページは破られていた。
「黒瀬恒一は?」
澪が静かに尋ねる。
「彼は――」
木津は、少し考えてから答えた。
「構造を理解していた」
犯人が誰か。
何が行われたか。
それ以前に。
「どうやって“終わらせられるか”を」
真琴は、資料を閉じる。
「つまりさ」
皆の視線が集まる。
「連続失踪と不正事件は、
直接つながってるわけじゃない」
「……」
「でも、
同じ“終わらせ方”をしてる」
誰かが意図的に。
誰かが壊れないように。
誰かが踏み込みすぎないように。
「これ」
真琴は、ぽつりと言う。
「調べちゃいけないやつだよね」
否定する声はなかった。
木津だけが、低く答える。
「そうだ」
一拍置いて。
「だから、ここからは――」
真琴は、視線を落とさず言った。
「それでも、行く」
父が行った場所。
久我が立ち止まった線。
黒瀬が語らなかった核心。
そこに向かうことを、
もう止める理由はない。