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ラベンダーの丘で逢いましょう

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ラベンダーの丘で逢いましょう

第2話 - 第2話

392

2024年10月08日

#大人の恋愛

#純愛

#ハッピーエンド

#北海道

#大人ロマンス

#医者

瑠璃マリコ

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392

瑠璃マリコ

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次の日瑠璃子は仕事が休みだった。

今日は採用面接を受けていた岩見沢医科大学病院の結果が出る日だった。

採用されれば夕方までに電話が来ることになっている。

おそらく外出しても落ち着かないだろうと思った瑠璃子は今日は一日家で待機する事にした。

瑠璃子は起きてから朝食用にフレンチトーストを作った。

一人暮らしが長かったので料理は得意だったがここ最近は失恋のせいでキッチンに立つ気力も失せていた。

しかし転職活動を始めてからは少しずつ前向きになっている。環境を変えられるかもしれないと思うと徐々に気力も戻ってきた。

だから今朝は久しぶりにキッチンに立とうと思えた。これだけでもかなりの進歩だ。

瑠璃子はフレンチトーストとコーヒーをテーブルに運ぶと久しぶりにゆっくり朝食を取った。

食事を終えた後は洗濯と掃除を一気に済ませてから再びテーブルの前に座る。

そしてパソコンで岩見沢市の地図を表示させると街中を散策してみる事にする。

まずは岩見沢駅からだ。地図で駅を表示させるとそこには全く知らない駅舎があった。瑠璃子が子供の頃に見た駅舎とは全く違う。

瑠璃子の記憶の中の駅舎は古びたコンクリートの建物だったが今はとても近代的な建物に変わっていた。

まるで美術館のようなデザインの洗練された駅舎が気になり駅についてを調べてみる。するとその駅舎は有名建築家が設計したようだ。

前面は全てガラス張りで窓枠には古いレールが再利用されているようだ。

もし転職が叶い岩見沢へ移住する事になったら駅舎を見学してみよう……瑠璃子はそう思った。

次に瑠璃子は祖母が住んでいた家の住所を入力する。

瑠璃子が毎年夏休みに行っていた祖母の家は市街地から少し離れた場所にあった。

周りは畑と小高い丘が続くような田舎で祖母の家の前の道路を挟んだ向かいにも小高い丘があった。

その丘は花農家の畑で一面ラベンダーが植えられていた。風のある日には祖母の家までラベンダーの香りが漂ってきたのを覚えている。

小高い丘を上がると駐車場がありその奥には農家の自宅と作業小屋があった。

作業小屋の周りにはいつもカイガラソウや小さなトウモロコシが天日干しされていた。ドライフラワーに使う花材用だ。

ラベンダー畑は無料で開放され外部の人も見学出来るようになっていたので瑠璃子は夏休みの間毎日のようにそこへ行って遊んでいた。

瑠璃子は小学校4年生まで毎年夏休みを祖母の家で過ごしていた。

4年生の最後の夏休みにはラベンダー畑へ瑠璃子を迎えに来た祖母が突然倒れた事があった。軽い心筋梗塞だった。幸い当時そこへ遊びに来ていた畑の持ち主の親戚が救命救急処置をしてくれて祖母は一命をとりとめた。

祖母が倒れた時の状況は幼い瑠璃子にとってかなりショックだったのだろう。瑠璃子はその時の事をほとんど覚えていない。記憶に残っている事といえば救急車の赤いランプがチカチカと点灯していた事だけだった。

祖母はその後しばらく元気にしていたが瑠璃子が高校3年生の時に帰らぬ人となった。祖母の死後は母と一緒に岩見沢へ帰り葬儀を慌ただしく執り行ったのを覚えている。

その後祖母の家は全て取り壊し更地にしてから売却した。

その辺りを地図で見てみると新しい戸建てが何軒か建ち並び今は見知らぬ人が住んでいるようだった。

（この辺りの景色もだいぶ変わっちゃったのかな？）

そう思いながら瑠璃子はいつも遊んでいた丘がまだあるのかを見てみる。すると道路を挟んだ向かい側にその丘はまだ残っているようだ。

ラベンダー畑があるかどうかまでは確認出来なかったが道路から丘へ上がる道は昔のままだった。

当時瑠璃子を毎日あの場所で遊ばせてくれたあの家の優しいおばあちゃんは今も元気なのだろうか？

もし岩見沢に引越したら行ってみよう……瑠璃子はそう思った。

その時突然瑠璃子の携帯がけたたましく鳴った。

一瞬緊張した瑠璃子はすぐに電話に出た。

「はい、村瀬です」

「こんにちは、岩見沢医科大学病院の人事課の佐藤と申します。今お時間よろしいでしょうか？」

「はい、大丈夫です」

「今回は採用試験にご応募いただきありがとうございました。当院では是非村瀬さんに来ていただきたいと思いお電話を差し上げました。もしよろしければ10月から来ていただくという事で手続きを…..」

その後の会話はあまりよく覚えていない。

とにかくこれから転職するまでの流れ、転職の際に必要な書類、移住後の家を決める際の不動産屋の電話番号等細かい説明が続いたので瑠璃子は必死にメモを取った。

一通り説明を受けた後瑠璃子は電話を切った。そしてその場にへたり込む。

とにかく10月からの新しい職場が決まったので瑠璃子は安堵した。

実は瑠璃子は今の病院を8月末で退職する事を既に師長に伝えていたのだ。

ホッとした瞬間身体中の力が抜ける。それと同時に瑠璃子の頬に涙が伝った。

それは瑠璃子が失恋後に初めて流した涙だった。