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探偵社を出るとき、真琴はいつも通り鍵を二度確かめた。
「じゃ、行こっか。今日は“聞くだけ”の日」
そう言って振り返ると、玲はもう歩き出している。燈は少し遅れて、ポケットに手を突っ込んだまま。
「聞くだけ、ね。どうせ途中でムカつくんだろ」
「燈は黙ってればいいの」
澪が小さく言う。声は弱いが、内容は容赦がない。
今回は五人全員では動かない。
伊藤は事務所に残り、連絡役。現地に行くのは真琴、玲、燈の三人。澪は別行動で資料を当たることになっていた。
「三人で大丈夫? 怖くない?」
真琴が冗談めかして言うと、燈が鼻で笑った。
「今さら何言ってんだよ。人が三人同時に同じこと言う方が怖いわ」
依頼の内容は単純だった。
――ある出来事について、関係者全員の証言が完全に一致している。
日時、場所、流れ、感情の動きまで。
「普通、ズレるんだけどね」
最初の聞き取りを終えた帰り道、真琴がぽつりと言った。
「言い間違いとか、記憶違いとか。誰か一人くらい、違うこと言うのに」
「全員、同じだった」
玲が淡々と返す。メモ帳を閉じる指が、少しだけ早い。
「言葉も?」
「ほぼ同じ。主語の位置、言い回し、順番」
「気持ち悪」
燈が短く吐き捨てた。
次の証言者も、その次も、結果は変わらなかった。
まるで台本を配られたかのように、同じ話が繰り返される。
「――そのとき、怖かったですか?」
真琴が聞く。
「はい。とても」
「どんなふうに?」
「胸が締めつけられる感じで」
「……同じだな」
燈が小さく言った。
建物を出たあと、真琴は足を止めた。
「ねえ。今の人、さっきの人と“怖さの説明”まで一緒だったよね」
「一致率は高い」
玲は即答した。
「嘘ついてる感じは?」
「ない。脈拍、視線、反応速度。全部自然」
「じゃあなんで同じなんだよ」
燈が苛立ちを隠さない。
「コピーか? 人間の?」
「燈、落ち着いて」
真琴が間に入る。
「今日の目的は判断じゃない。“集める”だけ」
「……はいはい」
その頃、探偵社では澪が一人、資料をめくっていた。
新聞記事、ネットのログ、過去の掲示板。直接の関係はなさそうな断片。
――同じ説明文を読んだ形跡。
――同じ順序で情報を得た可能性。
澪は唇に指を当てる。
(……説明、だ)
事務机の向こうで、伊藤が紙を揃えていた。
「どう?」
「まだ、形にならないです」
「そっか」
それだけで会話は終わる。
伊藤は深く聞かない。澪も多く語らない。
夕方、再び合流した三人は、少し疲れた顔をしていた。
「何人目でも同じだった」
燈が椅子に倒れ込む。
「感情の出方まで揃ってる」
玲が言う。
真琴はコーヒーを配りながら、軽く笑った。
「でもさ。全員、ちゃんと答えてくれたよね」
「それが余計に不気味なんだよ」
「うん。でも“嘘”じゃない」
その言葉に、玲が一瞬だけ真琴を見る。
「現時点では、全員が正直」
澪は黙って頷いた。
「じゃあ今日はここまでだね」
真琴がまとめる。
「次は――どう“同じ”になったか、だ」
伊藤は静かにファイルを閉じた。
「証言は、揃った」
その言い方が、あまりにも自然で。
誰も、引っかかりを口にしなかった。