テラーノベル
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賢の言葉と志絵の肩に触れられた手に、彼女の心臓がバクバクと暴れ始める。
(今日、高西と再会してドキドキしたの……これで何度目……?)
異性を前にして、心がキュッと摘まれる経験をしたのは、志絵にとって久しぶりの事だ。
「いっ……いいよっ! ここまで来たら家はもうすぐそこだし、高西に悪いしっ! それとタクシー代、いくらだっけ?」
気持ちを紛らわしながら困ったようにヘラリと笑うと、志絵は慌てて両手を横に振った後、バッグから財布を取り出そうとしたら、賢に阻止された。
「いや、タクシー代はいらねぇ。それに…………総長といえども女だろ? ホラ、行くぞ。お前ん家、どこらへん?」
──総長といえども女だろ?
彼のひと言に、志絵の胸中に甘やかな痛みがジットリと広がっていく。
高校時代、軽口ばかり叩き合っていたヤツに女性扱いされて、彼女は何と言葉を返していいのか分からない。
しかも大人になった彼は……男の艶を滲ませているイケメンに変貌したのだ。
「あ…………ありが……と……」
照れるような、嬉しいような気持ちがない混ぜになりつつ、何とかお礼を伝える志絵。
大きな手が彼女の肩に触れたまま、賢が先導するように歩き出すと、春日町交差点で信号に引っ掛かった。
筋張った指先に触れられている部分が、やけに熱く感じてしまい、志絵はまつ毛をそっと伏せる。
「交差点を渡った先に、都営地下鉄三田線の春日駅の出入り口の横に、細い路地があるから、そこを入って……」
「おう。了解」
信号が青に変わると、志絵と賢は黙ったまま横断歩道を渡り、彼女の言った通りに歩いていった。
***
片側三〜四車線の白山通りから脇道に入っていくと、そこは都心とは思えない閑静な住宅街が広がっていた。
築年数の古い家と築浅の家が入り混じり、学生向けのアパートやマンション、小規模の都営住宅、介護施設もあり、所々に樹木が植え込まれている。
既に二十三時を回り、夜の眠りに落ちた都会の住宅地を更に歩いていくと、小さな公園が見えてきた。
「へぇ。大通りから一歩入ると、こんなに静かな場所があるんだな。しかも公園まであるじゃん」
コンクリートジャングルで覆われた中に、日常の息づかいを感じさせる場所があるのを、賢は意外に思ったらしい。
「ここの公園は、お昼休みや授業の空き時間に、学友とよく来てたんだ。脇道の入り口には、愛宕(あたご)市場があって、よくお昼ご飯を買って公園で食べてたなぁ。今は市場がなくなっちゃったけどね……」
志絵の肩に無骨な手が触れられたまま、彼が公園を通り抜けようとしているのか、彼女を中に入るように促した。
「なぁ。酔い覚ましじゃねぇけどさ…………ベンチに座んない?」
「私は……別に構わないけど……」
「じゃあ……ちょい寒いけど、夜風に当たろう」
志絵と賢は、近くにあった背もたれ付きのベンチを見つけると、少しだけ距離を置いて腰を下ろした。
管野アリオ
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#大人ロマンス
桃下結衣
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Jasmine
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コメント
1件
うわー、この空気感がすごくいいですね。「総長といえども女だろ」って言葉に志絵がドキッとするの、分かりすぎる…昔は軽口叩き合ってた相手に女性扱いされると、確かに胸がぎゅっとなる。肩に触れられたまま公園のベンチに座る流れも、自然で“このあとどうなるんだろう”って気持ちが一気に高まりました。距離感の変化が繊細に描かれていて、とても好きです。