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#読み切り
ruruha
656
ゆうまる
121
拒否した瞬間、空気が変わった。
それまでの笑いは、遊びだった。
今のは――裁定だった。
「今の、聞いた?」
誰かが周囲を見回す。
確認するように、同意を集める仕草。
「嫌だって言ったよな」
「やめろ、だっけ」
別の声が続ける。
「つまりさ」
「逆らったってこと?」
遥は息を詰めた。
「……違う。俺は――」
「違わない」
被せるように、即答。
「“嫌だ”は拒否。拒否は反抗」
「反抗ってさ。一番、面倒なんだよ」
誰かが舌打ちする。
「最初から黙ってればよかったのに」
「今までそうしてたじゃん」
「急に人間ぶるなよ」
遥は歯を食いしばる。
「……言えって。
ちゃんと拒否しろって……」
その言葉に、笑いが返ってきた。
「あー、それな」
「“ちゃんと”な」
「ちゃんと拒否するってのは、“許される立場”のやつがやること」
「お前は違う」
指が、遥の胸元を軽く突く。
力はない。
でも、意味は重い。
「お前が拒否すると場が壊れる、空気が悪くなる、雰囲気が冷める」
「だから――」
一拍。
「罰が増える」
遥の肩が跳ねた。
「……意味、わかんない」
正直な言葉だった。
すると、諭すような声。
「わかんないなら教えてやるよ。抵抗しなかった時はさ、“使われるだけ”で済んでた」
「でも今は?」
間。
「“逆らった”」
「逆らうってことは、管理が必要になる」
「躾」
「再教育」
「面倒かけた分、重くなる」
誰かが言った。
「自業自得だよな」
別の声。
「だってさ、黙ってたら、ここまでならなかった」
「お前が言ったんだぞ? 嫌だって」
遥の胸が、ぎゅっと縮む。
(……俺が、言ったから?)
(拒否したから?)
「もう一回、整理しよっか」
指を折る音。
「拒否した。空気を壊した。場を止めた」
「つまり、全員に迷惑かけた」
「だから」
にや、と笑う。
「今からのは、“拒否した罰”な」
遥は、声を絞り出す。
「……じゃあ……どうすれば……」
一斉に、同じ顔。
“今さら何言ってるんだ”という顔。
「どうもしなくていい」
「もう遅い」
「一回でも拒否したら、“素直じゃないやつ”確定だから」
「素直じゃないのは、一番、扱いにくい」
「だから――徹底的にやる」
遥の視界が揺れる。
(拒否しなければ、よかった)
(でも……)
(拒否しなかったら)
(それはそれで――)
「ほら。また黙った」
「さっきは言えたのに?」
「やっぱりさ。お前、抵抗向いてないよ」
「中途半端に反抗するから、余計、酷くなる」
最後に、決定打の一言。
「覚えとけ。ここでは、抵抗=罪。拒否=挑発」
「黙ってれば“物”で済んだのに」
遥は、目を伏せた。
(……俺が悪い)
(ちゃんと拒否したのに)
(正しくやったのに)
(それが、一番の失敗だった)
拒否は、救いじゃなかった。
刑だった。
コメント
1件
うわあ……読んでて胸がぎゅっとなるエピソードだった。拒否が“反抗”にすり替えられて、そこから罰が発生するっていう理屈、すごくリアルで怖い。特に「黙ってれば“物”で済んだのに」って台詞が重すぎる。遥が「ちゃんと拒否したのに正しくやったのに」って自分を責める方向に行くのも、読んでて辛かった。この空気の作り方、本当に巧いなあ……。続きがすごく気になります。