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判決は、予定通りだった。
黒瀬は有罪。
懲役十五年。
理由も、理屈も、すべて整っている。
――完璧な結末だ。
久我は、法廷の後方でそれを聞いていた。
表情は崩さない。
崩せば、ここまで積み上げたものが壊れる。
黒瀬は、振り返らなかった。
それでよかった。
久我は、
自分が彼の視線を探していないことに、
安堵すら覚えていた。
数か月後。
久我は昇進した。
異論は出なかった。
功績は十分。
判断も迅速。
――“正しい刑事”。
その評価が、
胸の奥で、
じわじわと腐っていく。
最後の面会は、形式的なものだった。
時間は短く、記録も残る。
ガラス越しに座る黒瀬は、以前よりも静かだった。
「……元気そうだな」
「ええ」
黒瀬は、淡く頷く。
「おめでとうございます」
久我は、目を伏せた。
「……皮肉か」
「いいえ」
黒瀬は、即答する。
「あなたは、外にいなければならない」
久我は、ガラスを見る。
そこに映る自分の顔が、ひどく他人のようだった。
「……私は、君を、救わなかった」
「知っています」
「……正義を、選ばなかった」
「ええ」
黒瀬は、穏やかに続ける。
「でも、あなたは、自分で選びました」
久我の指が、無意識にガラスに触れた。
その向こうで、黒瀬の指は、一歩手前で止まる。
触れない距離。
――あの夜と同じだ。
「……これで、終わりだ」
久我は、低く言った。
黒瀬は、少しだけ首を傾げる。
「そうですね」
そして、
初めて、
はっきりと微笑んだ。
「でも、覚えておいてください」
久我は、顔を上げる。
「あなたは、外にいる」
一拍。
「でも、
もう僕の檻の中ですよ」
久我の呼吸が、止まる。
「……何を、言っている」
「簡単なことです」
黒瀬は、静かに言う。
「あなたは、この選択を一生、
正しかったかどうか考え続ける」
久我は、言葉を失う。
「それが、
あなたの檻です」
面会終了の合図が鳴る。
黒瀬は、立ち上がり、一礼した。
「さようなら、久我さん」
久我は、立ち上がれなかった。
――黒瀬は、檻の中にいる。
それは、誰の目にも明らかだ。
だが。
外に出た久我の足取りは、重かった。
空は広い。
道は続いている。
それなのに、
どこへ行っても、
見えない鉄格子が、
常に視界の端にある。
選んだのは、
自分だ。
救わなかったのも、
自分だ。
だからこそ、逃げ場はない。
久我は、歩き出す。
檻のない世界で、
檻を背負ったまま。
――それが、
この事件の、
本当の終わりだった。
完