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第1話:電波ハイジャック
配信の幕開け
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
画面に映るまひろは、黄色のパーカーに膝丈のカーキ色のパンツ。ぱっつん前髪の奥の大きな瞳は、どこまでも無垢で子どもの好奇心そのものだった。
隣に座るミウは、モカのブラウスにミントグリーンのロングスカート。髪は後ろでゆるく結ばれ、耳には小ぶりのシルバーピアス。視聴者を包み込むような微笑を浮かべて、まひろに寄り添う。
まひろが首をかしげる。
「ねぇミウおねえちゃん、外国のニュースで変なの見たんだ。大統領が“世界中の武器を買ってまた売る!”って言ってて……ほんとにそんなこと言うのかな?」
コメント欄がざわめく。「え?マジ?」「やばすぎ」「本当なら戦争じゃん」。
ミウは柔らかく頷いてふんわり声を出す。
「え〜♡ もし本当ならすごく怖いよね。武器で世界を回してるなんて……うちら庶民にはどうしようもないよねぇ」
電波の裏側
その頃、別の部屋。
**Z(ゼイド)**は緑のフーディにジーンズ姿、頭には深めのキャップをかぶり、PCモニターを並べて座っていた。
彼の手元では、生成AIで作られた「大統領演説映像」がレンダリングされている。
テロップは鮮やかに、声は違和感なく。
「世界中の武器を買ってまた売る!」
「貧弱な雨理華に!」
不自然なフレーズでも、切り貼りされた文脈に紛れると、まるで本当に言ったかのように見えた。
Zは口元をゆがめて笑う。
「はじめての“電波ハイジャック”。さぁ、信じ込むかどうか試してみよう」
世界の混乱
翌朝、海外のニュース番組では「大統領の衝撃発言」として映像が流れた。
スタジオの司会者が困惑気味に語る。
「武器の再売却? 真意は不明ですが、国際社会に動揺が広がっています」
SNSには「戦争準備の宣言だ」「裏で取引してたんだろ」と怒りが渦巻き、抗議デモまで発生。
政治家や学者が否定しても、「テレビで流れたんだから事実」と信じる人々の声は止まらなかった。
レイNewsの追撃
その夜、レイNewsに記事が並ぶ。
大統領、武器売買に関与か──波紋広がる演説映像
専門家の指摘『フェイクの可能性も否定できず』
SNSでは怒りの声殺到『国民を犠牲にするのか』
「フェイクの可能性」など一文があるだけで、多くの人は「やっぱり言ったんだ」と思い込む。
無垢な声とふんわり同意
配信の最後。
まひろは黄色のパーカーの袖をぎゅっと握りながら、真剣な瞳で言った。
「ぼく……ただ“ほんとかな”って思っただけなのに、世界がケンカしちゃうのはいやだな」
ミウはふわりと笑い、まひろの頭を軽く撫でた。
「え〜♡ でも、みんなが考えるきっかけになるのは大事だよ。
怖いことでも、真実を知ろうって思うのは素敵だもん♡」
コメント欄には「ありがとう」「気づかせてくれて助かった」「日本からも声をあげたい」で溢れた。
結末
PCの前でZがつぶやく。
「混乱は始まった。次は“選挙”をかき混ぜる番だ」
モニターに並ぶ映像は、大統領候補たちの笑顔。その一つ一つに、切り貼りされた新たな“言葉”が加えられようとしていた。
無垢な疑問とふんわり同意、その裏で世界の電波は書き換えられ、現実がフェイクに塗り替えられていった。