テラーノベル
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今日はまだ終わりそうになかった。
その予感は外れなかった。
晃司が立ち上がると、リビングの空気が少し変わる。誰も大声を出していないのに、遥の背中にはじわじわと嫌な汗が滲んでいた。
「立て」
遥は立ち上がる。
理由は聞かない。
聞いても意味がないからだ。
晃司は遥の前まで来ると、そのまましばらく顔を見ていた。
値踏みされているようだった。
品物みたいに。
「学校は楽しいか」
また同じ質問だった。
「普通だって言っただろ」
「聞かれたことに答えろ」
「だから普通だって」
「そういう答え方をしていいって誰が言った」
遥は奥歯を噛み締めた。
話が通じない。
最初から通じる気もない。
答えが欲しいわけじゃないのだ。
ただ、従うかどうかを見ている。
それだけ。
ソファから颯馬が笑った。
「最近ほんと面倒くせぇな」
「黙ってろ」
遥が睨む。
「は?」
颯馬の声が低くなる。
まずいと思った時には遅かった。
怜央菜が小さくため息をつく。
「ほら、また」
沙耶香も呆れたように首を振る。
「何で毎回そうなるの」
遥は言い返したくなる。
毎回?
始めたのはそっちだろ。
そう叫びたかった。
けれど叫べば状況が悪くなるだけだ。
何度も経験してきた。
だから飲み込む。
飲み込んで。
飲み込んで。
飲み込んで。
気づけば、自分が何を言いたかったのかさえ分からなくなる。
「その顔」
晃司が言った。
「何だよ」
「今、お前何考えた」
「別に」
「嘘つけ」
即答だった。
遥は黙る。
沈黙が続く。
時計の秒針だけが聞こえる。
やがて晃司は興味を失ったように視線を外した。
「座れ」
命令される。
遥は再び床に腰を下ろした。
食卓には何もない。
会話もない。
なのに部屋へ戻ることは許されない。
時間だけが過ぎていく。
颯馬はゲームを再開した。
沙耶香はスマホを見ている。
怜央菜はテレビを眺めている。
まるで普通の家族みたいだった。
遥だけを除けば。
誰も遥を会話に入れない。
誰も遥に何かをさせない。
ただそこに座らせている。
いてもいなくてもいい存在みたいに。
それが逆に苦しかった。
どれくらい経っただろう。
不意にスマホが震えた。
遥のポケットの中。
小さな振動。
一度だけ。
けれど。
その瞬間。
遥の心臓が嫌な音を立てた。
視線を上げる。
四人とも別の方向を見ている。
気づいていない。
――はずだった。
「見ないの?」
颯馬の声。
遥の身体が固まる。
ゲーム画面を見たまま、颯馬は笑っていた。
「気になってんだろ」
その一言で。
遥はスマホに触れることもできなくなった。
コメント
1件
うわ、この話、ずっと息苦しかった……。晃司の「嘘つけ」の即答とか、颯馬の「見ないの?」で全部バレてる感、心臓ギュッてなったわ。遥の「飲み込む」連続、あれだけでどれだけ我慢してるか伝わるし、スマホの振動が逆に罠になる展開が辛い。続きどうなるんだろう…次も絶対読む🔥
ゆぴ
54
スミレ
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