テラーノベル
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放課後、相談室のドアが静かに開く。 女子がため息混じりに椅子に腰を落とす。
「……私、最近、友達と価値観が合わなくて」
日下部は腕を組んで、ゆっくりと顔を上げた。
「どういうことだ?」
「例えば……映画の話ひとつでも、笑うポイントが違ったり、好きな音楽のジャンルが違ったり。前は楽しかったはずなのに、今は一緒にいるのがしんどくて」
日下部は少し黙って、天井を見上げる。
「そっか……価値観って、変わるもんだよな。いや、変わらなくても、人によって感じ方違うし」
「でも、私……どうすればいいんだろう。話が合わないと、距離を置くしかないのかな」
日下部は机の上のペンをカチカチ鳴らしながら言った。
「距離を置くってのも、間違いじゃねぇと思う。無理して合わせるより、自然に接するほうが、結局楽だろ」
「でも……離れすぎたら、本当に友達じゃなくなるかも」
「それもな……しょうがねぇんじゃねぇか。価値観ってのは、合わせるもんじゃなくて、認め合うもんだと思う。全部一緒にしようとすると、しんどいだけだ」
女子は小さく肩をすくめた。
「認め合う……か」
「そう。例えば、映画の好みが違っても、相手の面白がり方を否定しなきゃいい。俺だって、好きなことは人に理解されなくても気にしねぇし」
女子は少し笑った。
「……なるほど。全部同じじゃなくてもいいんですね」
日下部は、わずかに口角を上げた。
「そういうこと。違う価値観を持ってるやつがいるってだけで、世界はちょっと面白くなると思えれば、それでいいんじゃねぇか」
窓の外に夕陽が差し込み、相談室に柔らかな光を落とす。
女子は少し軽くなった顔で、席を立った。
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