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夢の国(日の国)
40
廊下の端で、輪ができる。
逃げ道は、最初から塞がれていた。
「立て」
背中を蹴られる。
一発。
続けて、もう一発。
靴底が当たる位置を変えながら。
遥はよろけるが、倒れきれない。
「倒れるなって言っただろ」
腹に拳。
鈍い音。
息が一瞬、外に漏れる。
「……っ、息……できな……」
それを聞き逃さない。
「しゃべれるじゃん」
「余裕だな」
今度は、角材。
短い木の棒。
体育倉庫から持ち出したやつ。
太ももを横殴り。
痛みが遅れて来る。
脚が震える。
「声、小さい」
「聞こえない」
遥は歯を食いしばる。
「……意味、分からない……俺、何も……」
頬を殴られる。
平手じゃない。
拳。
「それ言うな」
「一番ムカつく」
背後から、膝裏を蹴られ、
今度こそ床に落ちる。
「はい、ダメ」
「床に座る許可、出てない」
髪を掴まれる。
引き上げられる。
「立て」
「立てって」
遥は、ふらつきながら立つ。
次は、ロッカーの扉。
開けて、
閉める。
遥の肩が挟まる。
一度。
二度。
「痛い?」
「表情、分かりにくいな」
三度目は、勢いをつけて。
「……やめろ……」
声が割れる。
その瞬間、笑いが走る。
「今のいい」
「ちゃんと感情出た」
今度は、床に転がしたモップの柄。
「これ、知ってる?」
「当たるとさ、痕残りにくいんだって」
背中に振り下ろされる。
一回。
二回。
遥は声を殺そうとして、失敗する。
「……っ、分かんない……!何が正解か……!」
その言葉に、誰かが頷く。
「いいね」
「分かってきた」
次は、選択。
床に置かれる、二つの物。
一つは、スリッパ。
もう一つは、金属製の定規。
「どっちでやる?」
「自分で決めろ」
遥は、震える手でスリッパを指す。
「……それ……そっちで……」
「はい、自己選択」
定規が使われる。
腕。
手の甲。
指。
乾いた音が、連続する。
「選んだの自分だよな?」
「文句言うなよ」
遥は、涙を零しながら、言う。
「……俺が……選んだ……だから……」
言葉の続きを、腹への蹴りで潰される。
最後は、全員参加。
「一人一回」
「触れとこ」
殴る者。
蹴る者。
棒で叩く者。
肩を突き飛ばすだけの者。
それでも、全員が“やった側”。
遥は、壁に背をつけたまま、ずるずると崩れる。
誰かが、耳元で言う。
「今日はこれで終わり」
「でもさ。
さっき言ってたよな。“分からない”って」
一拍。
「分からない奴は、また教えないと」
遥は、床を見つめながら、かすれた声で言う。
「……次は……
……ちゃんと……する……」
その言葉で、全員が満足した顔をする。
これが、次の集団いじめの合図だった。
コメント
1件
うわ……これ、読み終わってしばらく息ができなかった。文体が一撃一撃の重さをそのまま伝えてくる感じで、読んでるこっちの息まで詰まるような第25話だったね。特に「自己選択」って言わせておきながら定規を使うところと、全員参加の流れに持ち込む構造が、組織的ないじめの本当の恐ろしさを描いてて心臓にくる。遥が「ちゃんとすると言わされる」ラストの重さも、続きを予感させて本当に胸が痛い。ruruhaさんの筆致、容赦ないけどそこにリアルの温度がある。