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あいつは、俺の顔を見ていなかった。目は合ってたけど、たぶん、俺じゃなかった。
誰か……いや、「何か」を見ていた気がする。
俺が差し出したものを、あいつは受け取った。けど、それが「嬉しい」とか「助かった」とか、そういう顔じゃなかった。
……むしろ、傷ついたみたいな顔だった。
わからない。いや、わかる。けど、わかりたくない。
俺はただ、あいつのそばにいたいだけで、
あんなふうに、なにかと引き換えに、なにかを押し付けたつもりなんか、ない。
でもあいつにとっては、何かをもらうってことは、
なにか代償を払わなきゃいけないってことなんだろう。
その“当然”を崩すことが、あいつには、
たぶん、俺が思ってるよりずっと、こわいことなんだ。