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小さな子犬は、颯馬の友人の腕の中で必死にもがいていた。足先を宙に泳がせ、か細い鳴き声を上げる。
そのたびに別の友人がわざと背中を指先で突き、「ほら、もっと鳴け」と笑いながら力を強める。さらにもう一人が、子犬のしっぽを掴んでぶら下げるふりをして見せた。笑い声が連鎖する。
「その子離せ!」
遥は砂利道を滑りながら飛びかかる。だが一歩手前で背中を蹴られ、体が前につんのめった。膝が石に擦れて皮が剥ける。じわりと血がにじんでも、手は子犬へと伸びる。
「おい、颯馬。こいつ本気で取り返そうとしてるぞ」
「はは、犬同士の友情かよ」
友人たちは笑いながら、子犬をさらに高く掲げる。「取れるもんなら取ってみろ」と声が飛ぶ。
颯馬は一歩前に出て、冷えきった声で言った。
「何度言えばわかるんだよ。反抗したらどうなるか、まだ覚えてねぇのか?」
その声は低く、淡々としているのに、刃物のような重さがあった。
遥はかすれた声で叫ぶ。
「俺のことはどうでもいい! その子はやめろ、頼む!」
その瞬間、友人の一人が子犬をわざと逆さにして持ち替えた。小さな体がぶら下がり、鳴き声が一段高くなる。
「やめろっ!」
遥は立ち上がり、突き飛ばされながらも腕を伸ばす。だが別の友人が背後から肩をつかみ、押し倒した。顔が土に打ちつけられ、口の中に砂利が入る。血と砂の味が混じって吐きそうになるが、吐くことも許されない。
颯馬はその光景を見下ろし、口角だけで笑った。
「そんなに大事か? じゃあ、見せてやるよ。おまえがどこまで“犬”になれるかを」
言い終えると、足先で遥の腕を軽く踏みつけ、友人たちに顎で合図した。
「やれ」
友人たちが一斉に動き、誰かが遥の手首を、誰かが足首を押さえつける。砂利が背中に食い込み、痛みが全身を走る。それでも遥は叫んだ。
「やめろ、やめろって! その子だけは――っ」
子犬の鳴き声がひときわ高く響く。友人の一人がその頭を撫でるふりをしながら、爪先で軽く押し込む。子犬が丸まって震える。
遥は喉が裂けるほどの声で「やめろ」と叫び、体をひねって拘束を振りほどこうとする。だが重みが増すたび、肋骨の奥がきしむ。視界がにじんでも、子犬だけを追い続ける。
「いい顔してんな。まだ終わんねえぞ」
颯馬の声は笑っているのに、冷え切っていた。友人たちがその調子に合わせ、遥の腕をさらに強く押さえ込む。砂が爪の間に入り、皮膚が裂ける。遥の呼吸は荒く、声はかすれ、ただその子の名前を必死に呼び続けるしかなかった。