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水白幻レイ
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放課後。
教室には夕方の光が残っている。
帰りのホームルームが終わってから一時間近く経っているのに、まだ何人か残っていた。
生徒は窓際の席で頬杖をついている。
「最近」
間。
「昔の方がマシだった気がするんです」
遥は鞄の中から英単語帳を出しかけて、やめた。
「いつ」
短く。
「中学とか」
一拍。
「もっと前かもしれない」
生徒は苦笑する。
「別に楽しかった訳じゃないんです。嫌なこともあったし、しんどかったし」
視線が落ちる。
「でも」
少し間。
「今より希望あった気がする」
教室が静まる。
「希望」
遥が繰り返す。
生徒は頷く。
「なんか、大人になれば変わると思ってたし高校入ったら変わると思ってたし」
一拍。
「いつか普通になれると思ってた」
沈黙。
「でも」
小さく笑う。
「結局、自分は自分のままでそんな変わってない」
教室の空気が少し重くなる。
遥は机に指を置く。
「昔が良かったんじゃないな」
短く。
生徒は顔を上げる。
「……え」
遥は言う。
「昔の自分の方が」
一拍。
「未来を信じてた」
教室が静まる。
生徒は止まる。
「……あ」
小さく出る。
遥は続ける。
「だから」
短く。
「恋しいのは過去じゃない」
沈黙。
「昔持ってた期待だ」
教室の空気が変わる。
生徒は何も言えない。
遥は窓の外を見る。
「子どもの頃って」
一拍。
「勝手に未来が来ると思ってる。いつか変わる、いつか幸せになる、いつか報われる」
短く。
「根拠なく信じてる」
沈黙。
「でも」
生徒は言う。
「今は信じられない」
遥は否定しない。
「だろうな」
短く。
「現実見たから」
教室が静まる。
「期待したのに駄目だった、頑張ったのに変わらなかった、待ってても何も起きなかった」
一拍。
「そういうの積もる」
沈黙。
生徒は目を伏せる。
「じゃあ」
小さく。
「本当に昔の方が良かった訳じゃないんですか」
遥は少し考える。
「良かった部分もあるだろ」
短く。
「でも」
一拍。
「全部美化してる」
教室が静まる。
「今苦しい時ほど昔は良かったってなる。昔苦しかった時は」
一拍。
「未来に期待してたくせに」
沈黙。
生徒は少し笑う。
「勝手ですね」
遥は短く返す。
「人間だしな」
教室の外では運動部の片付けが始まっている。
「なんか」
生徒は言う。
「昔に戻りたい訳じゃないのかも」
一拍。
「昔の自分が持ってた希望が羨ましいのかも」
遥は鞄を持つ。
「かもな」
短く。
沈黙。
生徒も立ち上がる。
窓の外は少し暗くなっていた。
昔が恋しい時。
本当に戻りたいのは、その頃の景色じゃない。
まだ未来に期待できていた、あの頃の自分自身なのかもしれない。
コメント
1件
第7話、読み終わりました。「昔の方が良かった」って感覚、すごくわかります。でも遥先生が「恋しいのは過去じゃなくて、昔持ってた期待だ」って言い切ったところ、グッときました。確かに、今が辛いほど過去を美化しちゃうけど、戻りたいのは景色じゃなくて「未来を信じられてた自分」なんだなって。その整理の仕方が鮮やかで、自分にも当てはめて考えさせられました。