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#読み切り
ドアが開く。
相談者は席に着いてすぐ言った。
「頑張ってるはずなのに、全然進んでる感じしない……」
蓮司は椅子を引く。
「何を」
「勉強とか。部活とか。色々」
「やってはいる」
「やってる」
蓮司は座った。
「でも変わらない」
「そう」
少し間。
「いつからそう思ってる」
「結構前から」
「結果出てない?」
相談者は考える。
「出てないわけじゃない」
「じゃあ何だ」
相談者は言葉を探した。
「なんか……足りない」
蓮司は黙る。
「頑張った日に満足できない?」
「できない」
「休んだ日も満足できない?」
「できない」
「厄介だな」
相談者は苦笑した。
少し沈黙。
「お前さ」
「何」
「ゴール動かしてないか」
相談者は眉を寄せる。
「どういうこと」
「前はそこ行きたかった」
「うん」
「近づいた」
「うん」
「そしたらもっと先見始めた」
相談者は黙った。
「……ある」
「だから到着しない」
間。
「でも上目指すのは悪くないだろ」
「悪くない」
蓮司は頷く。
「ただ、“前より進んだ”を消してる」
相談者は視線を落とした。
少し静かになる。
「今のお前、登ってる最中ずっと頂上見てる」
「だめなのか」
「景色見えてない」
間。
「だから苦しい」
相談者は黙る。
「頑張ってる実感って、結果だけじゃ出ない」
「じゃあ何」
「積み重なった感覚」
少し沈黙。
「でも毎日同じだ」
「本当に同じなら続かない」
相談者は少し考える。
「前よりはできること増えてるかも」
「そこだな」
間。
「でもそれ、小さい」
「成長なんて大体小さい」
相談者は苦笑する。
「夢ないな」
「現実的だ」
少し静かになる。
「あと、お前」
「何」
「“変化”じゃなくて“劇的変化”待ってる」
相談者は吹き出した。
「それかも」
「ある日突然別人になると思ってる」
「ちょっと思ってた」
「ならしんどいな」
間。
「現実は?」
「昨日と今日の違いなんて分かりにくい」
「じゃあ何でみんな頑張れるんだ」
蓮司は少し考えた。
「分かりやすい変化を期待してないやつもいる」
相談者は黙る。
「今日はやった」
「うん」
「それで終わり」
間。
「そんな割り切れる?」
「割り切れてないやつも多い」
少し沈黙。
「なんかさ」
「何」
「自分だけずっと準備してる感じなんだよ」
蓮司は少しだけ頷いた。
「本番が来ない?」
「そう」
「でも多分な」
相談者は顔を上げる。
「その準備だと思ってる時間も、もう本番だ」
間。
相談者は黙った。
「勉強も」
「うん」
「部活も」
「うん」
「今しかない」
少し静かになる。
「先のためにやってると思ってた」
「そう思う方が楽だからな」
相談者は小さく笑った。
間。
ドアの前で立ち止まる。
「進んでないんじゃなくて、気づいてないだけかもな」
「その可能性はある」
ドアが閉まる。
成長は、止まって見える時期が一番長い。
だからこそ、進んでいるかどうかは、勢いより積み重ねで見るしかない。
コメント
1件
ちょっと泣きそうになりました……。第100話おめでとうございます。「ゴール動かしてないか」って蓮司の指摘、心にグサッときました。頑張ってるのに進んでる気がしない感覚、すごく分かるんですけど「景色見えてない」って言われてハッとしました。積み重ねが目に見えない時期ってありますよね。でも「その準備も本番」っていう言葉がすごく沁みました。成長の実感って確かに結果だけじゃない…。静かだけど深い話、ありがとうございます。