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Jasmine
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九回裏、ツーアウト満塁。
灼熱の神宮球場は、藤森学園高校と東林大学付属菅戸高校の応援で割れんばかりにうねり、1対1の白熱した投手戦だった。
三年生になった賢は、初めてレギュラーの座を掴み取り、しかも学校創設初の決勝戦進出。
背中のエースナンバーには、大きな重責がのし掛かっている状態だった。
試合に集中しつつも、彼は、もうダメかもしれない、と心のどこかで諦め掛けた時。
『高西ぃいいぃ! 頑張れぇぇええぇっ!!』
大歓声の波から突き抜けるように、坂口志絵の声が賢の耳に届いた。
志絵は楽器も吹かず、賢に向けて大きな声を張り上げて応援し続け、彼の耳朶を揺さぶる。
両手を腹の前で組むような構えのセットポジションから、渾身のストレートを投げた彼は、サヨナラ満塁ホームランを打たれ、初の甲子園出場の夢が潰えてしまった。
マウンド上でガックリと崩れ落ち、四つん這いになって、なかなか立ち上がれなかった賢。
自分のせいで、試合に負けた事が悔しくてたまらず、顔を歪ませながら泣きじゃくる。
試合後、彼は肩を落としながら球場周辺に佇んでいると、志絵が恐々としながら声を掛けてきた。
『…………高西』
『ああ…………総長。お疲れ』
『高西も……お疲れ』
志絵も、賢を励ましたい気持ちはあったのかもしれない。
だが、悔しさに打ちひしがれた彼には、どんな前向きな言葉よりも、たったひと言、『お疲れ』とだけ伝えてくれた彼女に、救われたような気がした。
声を枯らして声援を送り続けてくれた志絵に、笑顔を何とか作って向ける彼。
『吹部の応援、すごかったな。ありがとう』
賢は、ひとしきり考えた後、キャットアイに眼差しを合わせた。
『あと………… 九回裏の時、総長の“高西〜! 頑張れ〜!!”って声援。マジ嬉しかった。サンキューな』
『え!? 私の声、聞こえてたの!?』
自分の声援が、まさか賢に聞こえているとは思わなかったのか、志絵は驚きに顔を染めらせている。
スタンドとマウンド上は、距離がそこそこあるが、歓声は意外と聞こえるのだ。
『総長の声ってさ、普段からデカいじゃん? すぐわかった。あの時、俺さ、“もうダメかも”って思ってたんだけど、隙間にスッと入り込んでくるように、総長の声が聞こえたんだよ』
『そっか』
志絵の呆気ないほどの言葉に安堵しつつ、賢は、吹奏楽部が八月に大規模の大会がある事を、不意に思い出す。
『吹部は来月、大会なんだろ? 最後の大会、頑張れよ』
『うん。ありがとう』
『じゃあ、また二学期に学校でな』
『うん。お疲れ!』
賢は志絵とグータッチをすると、彼女が眩いほどの笑みを映し出した瞬間、彼の心臓が大きく脈を打ち、鷲掴みにされた。
(何で俺…………こんなにドキッとしたんだ? ってか総長って…………こんなに──)
──可愛い女だったんだ。
コメント
1件
第15話読み終えた!賢がサヨナラ満塁HR打たれて崩れ落ちるところ、めっちゃ胸にきたよ…。でもそこから志絵の声援で立ち直る流れが心温まるというか、グッときた。最後の「可愛い女だったんだ」って賢の気づき、ここで来たか!って感じでニヤけるわ🔥 試合描写も熱くて、青春ものはこうでなくちゃな。続きも楽しみ!