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霧の庭は、昨日よりもさらに不安定に揺れていた。
白い光の粒が空気に漂い、舞い落ちる花びらが風に乱される。
真白はその中で、息を詰めて立っていた。胸の奥に、記憶の欠片がざわめいていた。
彼の目の前には、金色の髪を揺らすアレクシスの姿がある。
微笑む唇の奥に、深い悲しみが潜んでいることを、真白は無意識に感じ取っていた。
その瞳はまるで、彼をずっと待っていたかのように、真白の魂を見つめていた。
真白は胸の奥で、前世の断片を感じる。
戦場――砂煙が立ち込め、遠くで爆音が響く大地。
その中心で、自分はひざまずき、必死にアレクシスを庇っていた。
前世の僕は、愛する彼を守るために、身を投げ出して死んだ。
しかし現実の僕は、その痛みと後悔を忘れて生きていた。
日常に紛れ込み、夢の中でしか蘇らない記憶に気づくこともなく、無意識に日々を重ねていたのだ。
胸の奥の痛みが、現実の心臓にまで響く。
「……思い出した……」
真白は小さく呟き、両手を握り締める。
魂の奥に封じていた記憶と感情が、今、現実の温度と交錯し始める。
霧の中に幼い自分の姿が浮かんだ。
手を伸ばし、目を輝かせてアレクシスを呼ぶ。
「また会おう……必ず!」
その声は、現実では聞いたことのないはずなのに、胸の奥で痛いほど懐かしい。
アレクシスはゆっくりと近づき、真白の手を取った。
「君は……忘れていたのか?」
声の震えが、真白の胸をさらに締めつける。
「忘れていた……ごめん」
涙が頬を伝う。
「君を守るために死んだのに……その記憶を、僕は忘れて生きていた」
嗚咽が漏れ、胸の奥が裂けるように痛む。
「ずっと、君は待っていたのに……僕は……」
アレクシスは静かにうなずき、柔らかく微笑む。
「もういいんだ。君はここにいる。もう一度、出会えたじゃないか」
その声は温かく、胸の痛みを少しずつ包み込むようだった。
真白の中の罪悪感と後悔が、光に溶けるように消えていく。
「でも……置いていったのは僕だ」
胸の奥から絞り出すように告げる真白。
「君を庇って死んだはずなのに……今こうして生きて、記憶を忘れて……すべてを無駄にした」
アレクシスは両手で真白を抱きしめ、額をそっと合わせる。
「いいんだ……忘れていたとしても、俺たちは出会った。魂は覚えていた」
その言葉に、胸の奥で痛みと救いが重なり合う。
失った時間、傷ついた魂の痛み――すべてが、この再会のために意味を持つ。
霧の庭が少しずつ落ち着きを取り戻す。
光の粒が散り、舞い落ちる花びらが風に柔らかく揺れる。
胸の奥に残る痛みは、愛しさへと変わり、二人の魂を静かに結ぶ。
真白は涙を拭い、震える手でアレクシスの肩に触れた。
痛みも後悔も、すべて今、二人を繋ぐ糸となる。
「もう、二度と離れない」
胸の奥で揺れる光を感じながら、真白は心に誓った。
魂の奥で、幼い日の約束と現実の痛みが重なり合い、静かに共鳴する。
二つの魂が、ようやく同じ時空で再会し、再び歩き始める瞬間だった。
庭の霧は柔らかく揺れ、光の粒が夜空の星のように煌めく。
消えかけた痛みは、愛と温もりに変わり、胸の奥で静かに光る。
そして、二人はその幻想の中で、次の物語を紡ぎ始めた。