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真白が目を覚ますと、窓の外は柔らかな朝の光に包まれていた。
だが、胸の奥にざわめく違和感があった。アレクシスの存在――確かに隣にいるはずの温もりが、微かに薄れている。
「アレクシス……?」
声をかけると、彼は静かに振り返る。しかしその瞳には、いつもよりどこか儚さが漂っていた。
指先で触れようと伸ばした手が、わずかに空気を掴むだけで、現実の輪郭を持たないように感じられる。
真白は胸の奥の痛みに気づく。
前世の記憶が完全に蘇った瞬間、魂の結びつきと同時に、アレクシスの現実世界での存在が揺らぎ始めたのだ。
夢の世界から呼び戻された彼は、再び夢に還ろうとしている。
「もう……一度会えた。それだけでいい」
アレクシスの声は、柔らかく、しかし切実に響く。
真白はその言葉に胸を締めつけられ、思わず膝をつきそうになる。
世界が崩れ、空気が薄くなっていくような感覚――それは夢と現実の境界が溶けていくことを意味していた。
「そんな……離れないで……」
真白の手が、アレクシスの腕に触れる。
触れた瞬間、胸の奥に鋭い痛みが走る。
それは前世の痛みでも、夢の庭の疼きでもなく、現実を失うことの恐怖そのものだった。
「大丈夫……俺は、君の魂と共にあるから」
アレクシスは微笑むが、微かに輪郭が揺れる。
「でも……この世界には、完全にはいられない」
言葉は静かに響き、真白の胸を締めつける。
真白は目を閉じ、前世の約束を思い出す。
霧の庭で交わした誓い――
「君を必ず見つける」
その声を胸に呼び起こし、現実の世界でアレクシスを掴もうと手を伸ばす。
指先が、消えかけの存在を確かに掴む。
けれど、世界は崩れ、空間は波打つ。
「消えてしまうの……?」
真白の声は震え、胸の奥の痛みが絶え間なく押し寄せる。
アレクシスは柔らかく微笑む。
「君に会えただけで、十分だ。だから怖がらなくていい」
その微笑みに、悲しみと愛しさが混じり合う。
真白は涙をこらえ、強く握った手を緩めない。
「でも……僕は、君といる時間を諦められない」
胸の奥で、魂の叫びが震える。
世界はさらに崩れ、光と影が混ざる。
庭の霧が現実の窓を溶かすように揺れ、アレクシスの輪郭も薄れていく。
しかし、二人の手は離れない。
現実の儚さと、魂の確かさ――その間に、わずかな安定が生まれた。
「……覚えていて、俺のこと」
アレクシスがそっと囁く。
真白はうなずき、胸にその声を刻み込む。
「絶対に……忘れない」
光が揺れ、庭の霧が舞い上がる中で、アレクシスは少しずつ消えていく。
それでも、二人の魂は結ばれたままだ。
現実での姿は失われても、記憶と約束は胸の奥に残る。
最後に微笑むアレクシスの姿が、真白の瞳に焼きつく。
「また、必ず会おう……」
その声だけが、崩れゆく世界の中で確かに響いた。
真白は崩れていく景色に立ちながら、手を握ったまま呟く。
「僕も……君を、必ず見つける」
再会と別離――その代償を胸に刻み、二人の物語は、まだ終わらないことを確信する。
霧の庭と現実の境界は崩れ、光と影が混ざり合う。
消えゆく世界の中で、二人の魂だけは確かに繋がっていた。
そして真白の胸には、次の出会いへの希望と決意が、静かに芽生え始めた。