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放課後。
空き教室。
日下部は机に参考書を開いたまま、スマホで時間を確認する。
「全然進んでない」
小さく呟いたところでドアが開いた。
「お疲れ」
「お疲れ」
相談者が入ってくる。
「勉強ですか」
「一応」
日下部は参考書を見る。
「開いてるだけ説ある」
相談者が少し笑う。
向かいに座った。
「で?」
相談者は少し迷う。
「俺」
「うん」
「誰かと比べるのやめられないんです」
日下部は黙る。
「成績とか友達とか顔とか部活とか」
少し間。
「何見ても自分より上の人ばっかり目につくんです」
視線が落ちる。
「で」
短く息を吐く。
「落ち込む」
「うん」
「もう慣れましたけど」
相談者は苦笑する。
「SNS見ても学校でも結局誰かと比べてなんで自分はこうなんだろうって」
教室が静かになる。
「勝つと終わる?」
日下部が聞く。
相談者は止まる。
「え?」
「比べて、全部勝ったら終わる?」
少し沈黙。
「……終わらない気がします。たぶん、もっと上見る」
日下部は頷く。
「なるほど。比較って」
短く言う。
「勝負じゃなくて癖だから」
相談者は黙る。
「癖?」
「そう」
「百点取っても次は一位のやつ見る。一位になっても別のことで負けてるやつ探す。終わりない」
相談者は少し笑う。
「嫌なシステムですね」
「かなり」
少し空気が軽くなる。
「でも」
相談者は言う。
「みんな比べてないんですか」
「比べる」
即答。
「普通にしてる」
日下部は言う。
「ただ」
少し間。
「比べてることを真実だと思いすぎないやつもいる」
相談者は首を傾げる。
「どういうことですか」
「例えば」
日下部は続ける。
「すげえな、羨ましいな、ここまでは感情」
「うん」
「自分はダメだ、価値ない、ここから先は解釈」
相談者は黙る。
窓の外から運動部の声が聞こえる。
「俺、そこ一気に飛んでるかも」
「飛んでるな」
短く返る。
「誰かが凄い」
少し間。
「それと自分がダメ、同じ話じゃない」
相談者は視線を落とす。
「でも、なんか負けた気になるんです」
日下部は少し考える。
「それさ」
「うん」
「比べてる相手、本当に同じ競技か?」
相談者は止まる。
「え」
「勉強できるやつ、友達多いやつ、顔いいやつ、運動できるやつ」
短く言う。
「全部違うだろ」
相談者は吹き出した。
「確かに」
「十種競技やってる」
「忙しいですね」
「忙しい」
二人とも少し笑う。
しばらく静かな時間が流れる。
「比べるの、なくならないですかね」
「なくならない」
即答だった。
「人間だから」
「じゃあダメじゃないですか」
「別に」
日下部は言う。
「比べるなじゃなくて」
少し間。
「比べたあと、自分を殴るな」
相談者は黙る。
「……あ」
「羨ましいなら羨ましいで終わればいい」
短く言う。
「そこで毎回、自分の価値まで下げるから疲れる」
相談者は小さく頷いた。
立ち上がる。
「俺、比較してるんじゃなくて」
少し考える。
「負け判定してました」
「審判厳しすぎ」
相談者は笑った。
「ほんとですね」
ドアが閉まる。
誰かと比べることは、たぶんなくならない。
でも、誰かが輝いて見えることと、自分の価値が消えることは、同じではない。
コメント
1件
うわあ……これ、すごく刺さりました。 「比べるな」じゃなくて「比べたあと、自分を殴るな」って言葉、めちゃくちゃ胸に来た。確かに私も、誰かがすごいなって思った瞬間に「じゃあ私はダメだ」って飛びついてたかも。十種競技って例えも笑えたけど、すごく納得。 日下部くんの距離感、優しくて好きです。また読みたいです🌙
ruruha
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ruruha
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