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放課後。
空き教室。
日下部は机にノートを広げていた。
「一ページ」
そう呟いてペンを動かそうとしたところで、ドアが開く。
「お疲れ」
「お疲れ」
相談者が入ってくる。
「まだ終わってないんですか」
「終わってたらもっといい顔してる」
相談者が少し笑う。
向かいに座った。
「で?」
相談者は少し迷う。
「変な話なんですけど」
「変じゃない話、あんまり来ない」
相談者は少し笑う。
「褒められるの苦手なんです」
日下部は目を向ける。
「嫌?」
「嫌っていうか」
少し間。
「困るんです」
視線が落ちる。
「頑張ったね、とか、優しいね、とか、すごいね、とか。言われると」
相談者は苦笑する。
「いやいやってなる」
「否定する?」
「します」
「そんなことないですって、たまたまですって、全然ですって」
短く息を吐く。
「なんか、受け取れないんです」
教室が静かになる。
「嘘だと思う?」
日下部が聞く。
「いや」
相談者は首を振る。
「その人は本気で言ってくれてると思います」
「でも?」
「自分の中の評価と違いすぎて」
少し間。
「落ち着かないんです」
日下部は頷く。
「なるほど」
しばらく沈黙。
「自分で思ってる自分と他人が見てる自分がズレてる」
短く言う。
「だから褒め言葉が入ってこない」
相談者は小さく頷く。
「はい。詐欺みたいな気分になります」
「そこまで」
相談者は少し笑った。
「ちょっとだけ」
日下部も少し笑う。
「でもさ」
「うん」
「自分の評価だけが正しいとも限らない」
相談者は止まる。
「え」
「お前が見てる自分と他人が見てるお前、両方ある」
短く言う。
「でも、自分の方が自分を知ってます」
「全部?」
相談者は黙る。
「……全部ではないです」
「だろ」
日下部は言う。
「他人からしか見えない部分もある」
窓の外から吹奏楽部の音が聞こえる。
「あと」
「うん」
「褒められるの苦手なやつって百点の時しか受け取らない」
相談者は首を傾げる。
「どういうことですか」
「完璧じゃないから、まだ足りないから、もっと上いるから」
短く言う。
「だから全部返却する」
相談者は吹き出した。
「返却」
「受取拒否」
「宅配便みたいですね」
「配達員かわいそう」
二人とも少し笑う。
相談者はしばらく考える。
「俺、褒められる資格があるか考えてました」
「言ったやつは資格審査してない」
即答だった。
「ただそう思ったから言った」
相談者は黙る。
「……そっか」
「全部信じろとは言わない」
日下部は言う。
「でも毎回追い返してたら」
少し間。
「そのうち誰も届けなくなる」
相談者は小さく頷いた。
立ち上がる。
「ありがとうございます」
「課題終わったら褒めてくれ」
「まだ一ページですよね」
「見てたのか」
相談者は笑った。
ドアが閉まる。
褒められるのが苦手なのは、自分を嫌っているからとは限らない。
ただ、自分の中の評価が厳しすぎて、他人の言葉が入る隙間がなくなっているだけなのかもしれない。
コメント
1件
うわ、これすごくわかる……「自分が思ってる自分」と「他人が見てる自分」のギャップって、褒められた時に一番感じるんですよね。日下部の「言ったやつは資格審査してない」っていう返しがめちゃくちゃ好きです。あと「毎回追い返してたらそのうち誰も届けなくなる」って、優しくてちょっと切ない。吹奏楽部の音が遠くで聞こえる空気感も良かったです。次も読みます!