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#無理矢理
Akiha
2,323
翌日。
日下部はほとんど眠れなかった。
遥の言葉が残っている。
「また途中でいなくなるの」
何度も。
何度も頭の中で繰り返される。
否定したかった。
でも、できない。
実際に離れたことがあるからだ。
理由はあった。
事情もあった。
自分なりに考えた結果だった。
それでも。
遥から見れば。
いなくなった。
それだけだった。
教室に入る。
いつも通りの朝。
いつも通りの席。
いつも通りの騒がしさ。
遥もいる。
窓際。
教科書を開いている。
顔色は悪い。
でも、それもいつも通りだった。
日下部は席に座る。
話しかけない。
昨日のあとだ。
話しかけるべきじゃない。
たぶん。
でも。
何もしないのも違う気がする。
その繰り返し。
ずっと。
昔から。
授業が始まる。
先生の声が流れる。
黒板に文字が増える。
日下部は前を見る。
でも。
視界の端に遥がいる。
ノートを書く手。
少しだけ硬い肩。
机に置かれた指。
全部が見える。
見ようとしているわけじゃない。
勝手に入る。
それが嫌だった。
昼休み。
教室が騒がしくなる。
日下部は席を立つ。
特に理由はない。
いや。
本当はある。
遥を見たくなかった。
見てしまうから。
廊下へ出る。
自販機の前。
飲み物を買う。
開ける。
一口飲む。
味がしない。
「珍しいな」
声。
振り向く。
蓮司だった。
壁にもたれている。
日下部は小さく眉を寄せる。
「何が」
「お前」
蓮司は笑う。
「顔」
短い返答。
日下部は何も言わない。
蓮司は続ける。
「怒ってるわけでもない。
でも機嫌も悪い。
中途半端」
その言い方が少し癪に障る。
「用あるのか」
「別に」
蓮司は肩をすくめる。
そして。
何でもないことみたいに言った。
「遥に嫌われた?」
日下部の指が止まる。
缶が少し鳴る。
蓮司は見ている。
その反応を。
「別に」
日下部は返す。
「そう」
蓮司は頷く。
興味があるのかないのか分からない顔。
「でも」
少しだけ笑う。
「お前、勘違いしてるよ」
沈黙。
「何を」
「嫌われてるわけじゃない」
日下部は黙る。
蓮司の声は静かだった。
「だから面倒なんだろ」
その言葉。
妙に引っかかる。
「意味分かんねぇよ」
「だろうね」
即答。
蓮司は視線を窓の外へ向ける。
グラウンド。
運動部。
遠くの声。
「お前さ」
蓮司が言う。
「助けた側だから
助けられた側も同じ気持ちだと思ってる」
日下部の眉が動く。
「そんなこと思ってない」
「思ってるよ」
蓮司はあっさり言う。
「無意識に」
沈黙。
風が吹く。
自販機のモーター音だけが響く。
「助けた」
蓮司が続ける。
「だから嬉しいはず。
感謝してるはず。
安心してるはず。
そうじゃなくても」
少し笑う。
「少なくとも同じ方向向いてると思ってる」
日下部は否定しようとする。
でも。
言葉が出ない。
「違うのか」
ようやく出た言葉。
蓮司は答えない。
数秒。
考えるみたいに空を見る。
それから。
「知らない」
と言った。
日下部は思わず睨む。
蓮司は笑う。
「本人に聞けよ」
その言葉だけ残して。
歩き出す。
「待て」
呼ぶ。
蓮司は止まらない。
背中越し。
最後に一言だけ。
「でも」
少しだけ振り返る。
「嫌いなら、とっくに見てない」
それだけ言って。
去っていく。
日下部だけが残る。
廊下。
昼休み。
騒がしいはずなのに。
妙に静かだった。
その頃。
遥は教室にいた。
窓の外を見る。
グラウンド。
人。
声。
全部遠い。
昨日のことを思い出していた。
「今度は離れない」
勝手な言葉だと思う。
無責任だとも思う。
信じてない。
信じるつもりもない。
なのに。
思い出してしまう。
それが腹立たしい。
遥はペンを握る。
少し強く。
インクが滲む。
やめろ。
そう思う。
期待するな。
確認するな。
前提にするな。
何度も言い聞かせる。
でも。
人間は。
何度も同じ失敗をする。
遥自身が。
誰よりそれを知っていた。
窓ガラスに映る自分の顔を見ながら。
小さく目を伏せる。
そして。
誰にも聞こえない声で。
「……知らねぇよ」
とだけ呟いた。
それが。
今の本音に一番近かった。
コメント
1件
第50話、読了しました……! 蓮司の「嫌いなら、とっくに見てない」って言葉、めちゃくちゃ刺さりました。日下部が「見ようとしてないのに勝手に視界に入る」って描写もすごくリアルで、距離を置こうとしても目で追っちゃってる感じが伝わってきて切なかったです。遥の「知らねぇよ」も、期待したくないけどしてしまう自分への苛立ちが滲んでて、もう……二人とも真っ直ぐすぎてしんどい。でもその不器用さが好きです🔥