「今日は、何の話にする?」
日下部がそう言うと、相談者は少し間を置いた。
「……自分がいなくても、困らない感じです」
「誰が?」
「みんな、です」
即答ではなかった。
「家族も、友達も」
「具体的な出来事は?」
「ないです」
それから、ゆっくり言葉を探す。
「家では、
自分が黙ってても会話が進むし」
「うん」
「学校でも、
休んだら“大丈夫?”とは言われるけど」
「けど」
「次の瞬間には、
もう普通に回ってる」
日下部は頷くだけで、評価しない。
「自分が抜けた穴が、
すぐ塞がる感じ?」
「そうです」
相談者は指を絡めた。
「だから、
行けなくなっても、
余計に戻りづらくなる」
「“必要とされてない”って感覚が、
強くなる?」
「はい」
少し笑ってしまう。
「行かなくても問題ないなら、
行く意味あるのかなって」
日下部は静かに言った。
「それ、
性格の影響もあると思う」
「性格?」
「目立たないようにする癖」
相談者は、はっとした顔をする。
「空気を乱さないようにしてる人ほど、
いなくなっても気づかれにくい」
「……」
「でもな」
日下部は、少し間を取った。
「“必要とされてない”と
“依存されてない”は違う」
相談者が顔を上げる。
「依存されてない?」
「うん。
いなくなったら崩れる関係だけが、
必要ってわけじゃない」
相談者は、納得しきれないまま黙る。
「友達ってさ」
「はい」
「“一緒にいない時間があっても続く”
タイプもある」
「……それ、
自分には分からないです」
「今はな」
日下部は続ける。
「不登校になると、
“役割”が消えるから」
「役割」
「クラスの中での立ち位置」
相談者は小さく頷いた。
「役割がなくなると、
自分そのものも消えた気になる」
「まさに、それです」
日下部は、少しだけ声を落とす。
「でも、
人に必要とされる価値って」
相談者を見る。
「“使われてるかどうか”じゃない」
「……」
「今は、
誰かの役に立つ前に、
自分が生き延びる段階」
相談者は、ゆっくり息を吐いた。
「それでも、
何もしてない感じがして」
「してるよ」
「何を?」
「必要とされない場所から、
ちゃんと離れてる」
相談者は驚いたように目を瞬いた。
「それ、
一番難しい選択だから」
少し沈黙が流れる。
「……じゃあ」
相談者が言う。
「今は、
誰にも必要とされなくてもいいんですか」
「“今は”でいい」
日下部は頷いた。
「自分に必要とされる時間を、
先に作ろう」






