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夜のスタジオは、昼間の華やかさとは打って変わって静まり返っていた。
照明がわずかに残るだけの空間に、泉の呼吸だけが反響する。
「もう少し、確認だけだ」
柳瀬の声は低く、静かな響きだが、泉の体に微妙な震えを走らせる。
椅子に腰かけた泉の肩に、柳瀬は軽く手を置く。
「肩の力、抜いてくれ。カメラの前だけじゃないんだ」
柔らかく触れる手だが、そこには計算があった。泉はその指先を意識して微かに身をよじる。
「……なんで、俺の体ばかり見てるんですか」
泉の声は冗談めいているが、微かに赤みが差す。
柳瀬は唇の端を上げ、そっと耳元で囁く。
「体……じゃない。お前の反応だ。俺が欲しいのは、全ての瞬間の意識」
泉は椅子の背に手を置き、少し後ろに下がる。
「そんな……冗談でしょ」
だが、柳瀬の指が首筋をなぞると、理性は崩れかける。
「冗談じゃない。俺にとって、お前の声も、吐息も、肌の熱も、全部必要だ」
息が詰まる距離で、二人は静かに見つめ合う。
互いに触れたい、でも計算して触れる――この駆け引きが、彼らの関係を形作っていた。
柳瀬の手がゆっくりと背中を滑り、袖の中を通って腕に触れる。泉は思わず肩を震わせる。
「こんなこと、誰にも言えませんよ」
「誰も知らなくていい。今日のスタジオも、明日の撮影も、俺たちだけのものだ」
指先の感触が、泉の胸に直接訴えかける。
柳瀬は腰を少し近づけ、泉の耳元で息を落とす。
「抵抗するな。お前が受け入れれば、すぐに終わる」
泉は理性を振り絞ろうとするが、指先と息の熱に抗えない。
「……いや……」
その声は途切れ途切れで、耳元の囁きでさらに震える。
夜は深く、スタジオには二人だけ。
互いの呼吸、指先の触れ方、体の熱。すべてが計算と欲望の狭間で絡み合う。
泉は目を閉じ、柳瀬の掌の動きに身を任せる。
「……分かりました……」
その小さな声が、二人だけの契約を確かにする。
表向きはプロフェッショナルな関係、裏では互いを利用しつつ惹かれ合う。
スポットライトの影には、身体と心理を駆使した暗黙の契約があった。
欲望と駆け引きが、二人だけの空間を支配する。
深夜の静寂に、二人の吐息と指先の音だけが残る。
誰も見ない世界で、柳瀬は泉の体を通して、支配でも独占でもない、ただの“利用”を楽しむ。
泉もまた、駆け引きの中でしか感じられない快感を覚えていた。
愛でも独占でもなく、欲望と計算の交差点。二人だけのスポットライトの影。