夜のリビング。窓の外では細かい雨が降り続いていた。ぽつ、ぽつ、と静かな音が、部屋に落ち着いた時間を作り出している。
真白はソファに座り、膝を抱えて静かに目を閉じる。胸の奥には、昨日アレクシスに触れられたときの感覚がまだ残っていた。痛みと温もり――魂の痕跡が現実に染み込み、身体の奥で震えている。
「真白……話さなければならないことがある」
その声は低く、静かに響いた。振り向くと、アレクシスが窓際に立ち、雨を見つめている。金色の髪が淡く光り、視線は真白にまっすぐ向けられていた。
「……なに?」
声が震える。真白の胸は高鳴り、呼吸が少し乱れた。
「俺は……ずっと、君を探していた。あの世界から、ここまで――」
言葉はゆっくりと、しかし確実に胸に届く。
「君を守れなかったあの日から、俺の時間は止まったままだった」
真白の胸がぎゅっと痛む。理由もわからないのに、知らず涙が零れる。
記憶にはないのに、胸の奥で何かが疼く。
夢の庭、白い花びら、そして――雨に濡れた日の光景。
そのすべてが、現実と幻想の境目で鮮やかに蘇る。
「どうして……そんなに真剣なの?」
小さく震える声で問いかける。
アレクシスはゆっくり歩み寄り、ソファの前に膝をついた。
「だって……君は、俺が探し続けていた人だから」
瞳の奥には深い悲しみと切実な想いが宿る。
「この世界に来ても、君を守りたい。もう二度と、離れたくない」
胸の奥に、熱いものが流れ込む。真白は息を詰め、言葉を探す。
覚えていないはずの記憶が、胸の奥で疼き、確かに存在している感覚。
「……覚えていないのに、どうしてこんなに胸が……」
アレクシスの指先がそっと頬に触れる。触れた瞬間、胸に痛みが走る――魂の痕跡。
「……痛いけど……」
小さく息を漏らす真白。
「それでも、君に触れていたい」
アレクシスの声は優しく、確信に満ちていた。
「痛みは――俺たちが繋がっている証だ。忘れないで、君は俺の大切な人だから」
真白はゆっくり頷いた。涙が止まらず、胸が熱くなる。
「……僕も……もう、離れたくない」
アレクシスは微笑み、指先で髪を撫で、真白を抱き寄せる。
痛みも悲しみも、今は愛おしい感覚になっていた。
二人の呼吸が重なり、部屋の空気が柔らかく揺れる。
「……ねえ、アレクシス」
「うん」
「もう一度……僕の名前を呼んでくれる?」
アレクシスは胸の中で真白を抱き、低く呟く。
「真白――君を、もう一度見つけるためにここまで来たんだ」
その声は魂の奥まで染み渡り、真白の目から涙が溢れる。
窓の外の雨音が消え、静かな夜が部屋を包む。二人の影が重なり、魂の痕跡は溶けていった。
痛みも悲しみも、もう恐れる必要はない。
確かに互いがここにいる――それだけで十分だった。
真白はアレクシスの胸に顔を埋め、静かに涙を流す。
「……僕も、あなたを探していた」
声は掠れながらも、確かな約束を含んでいた。
アレクシスは優しく抱きしめ返す。
「これからは、二度と離れない」
その誓いは、夜空の星よりも確かで、雨上がりの光よりも柔らかく、永遠の約束のように響いた。
二人の間に流れる静寂は、幻想のように美しく、切なく、そして幸福で満たされていた。
魂が約束を覚えていたからこそ、二人はまた出会えたのだと、真白は確信した。
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