テラーノベル
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営業が終わる。
最後の客が帰り、照明が少し落ちる。
急に静かになる。
さっきまで何時間も話していたのに、今は誰の声もしない。
ナナはロッカーの前に座った。
ピアスを外す。
片方。
もう片方。
鏡の中の自分を見る。
疲れている。
思ったより。
「おつかれ」
後ろから声がする。
ミオだった。
「おつかれ」
ミオは荷物を抱えたまま立っている。
何か言いたそうで、言葉を探している顔。
「どうしたの?」
聞くと、
「今日さ」
少し間が空く。
「なんか、モテてたね」
ナナは吹き出しそうになる。
「何それ」
「いっぱい人いた」
間違ってはいない。
でも説明もしづらい。
「仕事だから」
そう答える。
ミオは少し考えてから言った。
「でも、違った」
ナナは手を止める。
「何が?」
「分かんない」
ミオは正直に言う。
「でも、違った」
その言葉が妙に残る。
ロッカーを閉める。
ガシャン、と音がする。
「帰ろうか」
「うん」
二人で店を出る。
夜風が冷たい。
駅までの道は明るい。
ミオは途中で別のホームへ向かう。
「またね」
「またね」
手を振る。
一人になる。
その瞬間。
スマホが震えた。
営業用じゃない通知。
短いメッセージ。
《お疲れさま》
それだけ。
名前を見る。
店とは関係ない相手。
ナナは立ち止まる。
返信しようとして、やめる。
画面を消す。
少し歩く。
また開く。
結局、
《おつかれ》
だけ返した。
送信。
それだけなのに、少し肩の力が抜ける。
駅のホームに立つ。
電車を待つ。
今日のことを考えようとして、途中でやめる。
奥の席。
笑い声。
視線。
会話。
いろいろあったはずなのに。
頭に残るのは、たった四文字だった。
おつかれ
電車が来る。
ナナはスマホをポケットにしまった。
誰のことを考えていたのか。
それだけは、自分でもまだ分からないふりをした。
コメント
1件
うわ、すごく静かな余韻が残る話だった…。「違った」って言葉、ミオちゃんの直感が刺さってくるし、最後の「おつかれ」の4文字だけが響いてくる感じ。ナナが自分に嘘ついてるみたいな、その曖昧な距離感がリアルで切なかった。作者さん、本当に空気の描き方が上手いです。