冬の朝は、いつもより少しだけ起きるのがつらい。
真白は目をこすりながらリビングに入ると、アレクシスはすでにコートとマフラーを準備して待っていた。
「おはよう、真白」
「おはよ……まだ眠い」
吐く息が白くなるほど冷たい空気の中、アレクシスは微笑みながら手元のマフラーを揺らす。
「これ、巻くの手伝おうか?」
「え……自分でできるけど……」
言いながらも、真白は少し戸惑った顔で差し出されたマフラーを見る。
長さがある上に、手が冷たくて扱いづらい。
「じゃあ、手伝うね」
「……うん」
アレクシスは手際よくマフラーを広げ、真白の首にふわりと掛ける。
そのとき、指先が肩や首筋にほんの少し触れた。
真白は一瞬息を止め、顔を赤らめる。
「……こうでいい?」
「う、うん」
アレクシスは結び目を整えながら、真白の肩にもう一度軽く触れる。
冬の寒さの中で、指先の温もりが体にじんわり染み込む。
「なんか……あったかいね」
「マフラーのせいだけじゃない」
「えっ?」
「君の手が触れたから、だよ」
真白は顔をそむけ、手でマフラーの端を握りしめる。
でも心の中では、ほのかに胸が熱くなるのを感じていた。
外に出ると、朝の冷たい空気が一気に肺を満たす。
雪はまだ舞っていないけれど、冬の匂いが街全体に漂っていた。
「手、冷たい?」
「うん……でも、大丈夫」
「じゃあ、手袋つける?」
「ううん、アレクのマフラーに包まれてるから平気」
アレクシスは少し驚いた顔をするが、微笑んで真白の隣を歩く。
風が冷たくて、ふたりの息が白く混ざる。
歩きながら、アレクシスはそっと手を差し出す。
真白はためらいながらもその手を握り返した。
マフラー越しの首元と、手のぬくもりが同時に伝わる。
「……ねえ、アレク」
「ん?」
「マフラーの結び方、教えてくれてありがとう」
「うん。寒い冬は、ちょっとしたことでも大事だからね」
真白は頷きながら、アレクシスの隣で歩幅を合わせる。
冬の街路樹の下、白い息と笑い声だけが静かに残った。
小さな距離感。手の温度。
そして、マフラーひとつで少しだけ近づいた心。
冬の寒さは、ふたりを少しだけ特別にしてくれる。
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