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雪の降る朝は、世界が少しだけ静かに感じられる。
真白が窓の外を見ると、庭や道路がうっすら白く染まり、ゆっくりとした雪がまだ降り続いていた。
その景色に見とれていると、背後からアレクシスの声がする。
「起きた? 雪、すごいよ」
「うん……なんか、外がふわふわしてる」
アレクシスはマグカップを二つ持って、真白の隣に立った。
温かいココアの香りがひと足早く届く。
「散歩、行く?」
「……寒いよ?」
「寒いけど、雪の日の朝って気持ちいいよ」
真白は少し考え、アレクシスのココアをひと口だけ飲んでから、小さく頷いた。
「うん。行く」
外に出ると、吐く息がすぐに白くなる。
雪は細かく、空気の中で静かに舞い落ちていた。
ふたりの足元で、きゅ、と小さく雪が鳴る。
「わ……音がいい」
「ね。雪の日の好きなところのひとつ」
アレクシスは真白の歩幅に合わせて、ゆっくりと並んで歩き出す。
足跡がふたつ、きれいに並んで伸びていく。
「アレク、見て。足跡そろってる」
「うん、真白が合わせてくれてるから」
「ちがうよ、アレクが歩くの遅くしてるんだよ」
ふたりはくすっと笑い、白い息が雪に溶けていった。
公園のあたりまで歩くと、枝に積もった雪が風に揺れてぱらぱらと落ちてくる。
真白は両手を広げ、落ちてくる雪片を受け止めようとした。
「つめた……!」
「そりゃ雪だもの」
アレクシスはそう言って、自分の手袋を外し、真白の手にそっと重ねた。
真白は驚きながらも、指先を預ける。
「温かい……」
「まだ冷たいでしょ。ちゃんと温める」
手袋越しじゃない、素手の温度。
それがじんわりと掌に広がっていく。
真白は恥ずかしそうにうつむいたまま、アレクシスの手をぎゅっと握る。
「ねえ……雪、好き」
「うん。真白が嬉しそうだから、もっと好きになった」
その言葉に真白は照れて、一歩だけアレクシスの背に隠れるように寄った。
帰り道、風が少し強く吹き、雪が斜めに舞う。
アレクシスは真白の肩に手を添えて、風上側を歩いた。
「アレク、前見えてる?」
「ちゃんと見えてる」
「じゃあ……帰ったら、ホットミルク作ってくれる?」
「もちろん。君は先にストーブつけてて」
真白は嬉しそうに目を細める。
ふたりが残した足跡は、ゆっくりと雪に埋もれていく。
けれど、寄り添って歩いた時間だけは、白い世界の中で静かに灯っていた。
家に戻り、玄関で雪を払う真白の肩に、アレクシスがそっとタオルを掛ける。
「ほら。風邪ひくよ」
「……ねえ、アレク」
「うん?」
「こうやって、冬を一緒に過ごすの、好き」
アレクシスは微笑み、真白の頭を軽く撫でた。
「俺もだよ。真白と一緒なら、どんな冬でも悪くない」
雪の静けさと暖かい手の温度。
その両方が、ふたりの冬を優しく包んでいた。