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瑠衣は、バイト先の先輩である桐谷にずっと憧れていた。背が高く、落ち着いていて、何より無駄なことをほとんど喋らない。
逆に瑠衣は、いつも明るく喋り続けて、周囲から「うるさい」と笑われるタイプだった。
「桐谷さーん!明日のシフト、一緒っすよね?」
「……ああ」
低い声の一言で終わり。
それでも瑠衣は満足だった。隣に立てるだけで嬉しかったから。
ある夜。
バイトが終わり、瑠衣は思い切って桐谷を飲みに誘った。
「桐谷さん、行きません?一杯だけ!」
「……未成年だろ」
「ノンアルでもいいじゃないっすか!ほら、語りたいんですよ!」
呆れながらも断らないのが桐谷らしかった。
二人で静かな居酒屋に入ると、瑠衣は早速ペースを飛ばす。
「桐谷さんってなんでそんな落ち着いてるんですか?モテるでしょ?」
「……別に」
「絶対モテますって!俺なら放っとかないし!」
軽口のつもりだった。けれど桐谷はふとグラスを置き、瑠衣を見た。
「……お前、本気で言ってるのか?」
「えっ」
冗談半分の言葉に射抜かれて、瑠衣は一瞬声を失った。
店を出ると、夜風が熱く火照った頬を冷ました。
その帰り道、桐谷がぽつりと言った。
「……俺も、放っとく気はなかった」
「……桐谷さん?」
答えるより早く、路地裏に引き込まれ、口を塞がれる。
深く重なる唇。驚きと同時に、全身が痺れるような熱で満たされた。
「……っん、は……」
声が漏れ、腕の中に押しつけられる。桐谷の無言の熱が、言葉以上に雄弁だった。
そのまま瑠衣は、彼の部屋へと連れ込まれる。
ベッドに押し倒されると、桐谷が低く囁いた。
「……さっきの、冗談じゃないんだろうな」
「……っ、も、もちろん……っ」
「なら、離さない」
その言葉とともに、シャツのボタンを一つずつ外されていく。
触れられるたびに、瑠衣の体は熱に浮かされ、喋る余裕を失っていった。
「……あ、っ……き、きりた……に……さっ」
普段なら賑やかな口が、震える声しか出せない。
桐谷は黙ったまま、ひとつひとつ確かめるように触れ、口づけ、深く沈めていった。
夜が更けるほど、瑠衣は知った。
無口な先輩が、どれほど強く自分を求めていたか。
言葉はなくとも、熱と鼓動がすべてを語っていた。
――翌朝。
眠気の中で瑠衣は小さく呟いた。
「……桐谷さん、俺、もうバイトやめらんないっすね」
「……安心した」
桐谷は短く答え、瑠衣を強く抱き寄せる。
隣にいるだけで満たされる――そんな笑顔が、二人の間に自然に広がっていた。