「おい、後輩。書類、逆だ」
「えっ、すみません!」
会社のデスク。
後輩の直樹は、今日も先輩の黒川にしごかれていた。
黒川は俺様気質で口が悪いが、仕事はできる。
そしてなぜか直樹にばかり目を光らせてくる。
「ほんっと、手間ばっかかけやがって」
「……すみません」
「ま、俺が見てやってなきゃ、お前なんかすぐ潰れてんだろうけどな」
「……はい」
口では強いことを言いながら、黒川は必ず直樹のミスをフォローしていた。
それが直樹には不思議で、そして、少し嬉しかった。
その夜。残業で二人きりになったオフィス。
「……先輩、ありがとうございました。いつも迷惑かけて」
直樹が素直に頭を下げると、黒川が目を細めて笑った。
「お前ってほんとバカ正直だよな。……可愛い」
「えっ……」
耳まで真っ赤になる直樹。黒川はその反応を楽しむように、わざと近づいた。
「なぁ直樹。俺がなんでいつもお前ばっか見てるか、わかるか?」
「……し、仕事の出来が悪いから……」
「違ぇよ。好きだからだ」
囁かれた瞬間、心臓が跳ねた。
直樹が呆然とする間に、唇を塞がれる。
「あ、……っ、ん……」
思わず声が漏れると、黒川は意地悪く笑った。
「お前、反応わかりやすいな。焦らされるの、好きだろ?」
「ち、違っ……でも、……っ」
「ほら。顔に出てる」
黒川の指先がシャツのボタンを外していく。
わざとゆっくり、焦らすように。
触れるか触れないかの距離で、唇や首筋をなぞられるたび、直樹の体はびくんと震えた。
「……んっ……あ……」
「かわいい声。もっと聞かせろよ」
強引で、けれど甘さを含んだ低い声に、直樹は抗えなかった。
ソファに押し倒されると、黒川はさらに攻めてくる。
唇で、舌で、何度もぎりぎりで引いては、直樹を追い詰めていく。
「先輩……っ、いじわる……!」
「俺様だからな」
くすぐるような言葉と、じれったいほどの愛撫。
直樹はもう自分から縋るしかなかった。
「……お願い、ちゃんと……」
「素直でいい子。そう言えるようになるまで、待ってたんだ」
ようやく与えられた深い口づけに、直樹は涙が滲むほど震えながら応えた。
夜が更けるほど、甘い声と熱が部屋を満たしていく。
俺様なはずの先輩が、最後には何度も優しく名前を呼んで抱きしめてくれた。
――翌朝。
「先輩……もう、焦らすの禁止です……」
「は?嫌か?」
「……嫌じゃないですけど」
照れながら答える直樹に、黒川は満足げに笑った。
「だったら今夜も続きな。お前、俺のこと大好きだろ?」
「……はい」
答えは素直に。それが一番嬉しいと、直樹は知ってしまっていた。
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