テラーノベル
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ピエロの格好をしているラウルに腕を引かれながら、俺はキッパリと大声で叫んだ。広間からはもう随分歩いて来たおかげで周囲に人はおらず、空気を読む必要は無い。それならば俺だって遠慮はしない。
「嫌だよ。どうせ今夜から一緒に住む家なんだしさ、ちょっと早く帰るだけだって」
「俺はお前と住むとは言ってない。行く気は無いって!」
「結婚してくれるんだろう?じゃあ嫁の要求には応えてくれないと」
「あ、あれは……」
『周囲の期待が熱過ぎて断れなかった』とは流石に言い辛い。ラウルがどこまで本気なのか、まだ計りきれていないからだ。
「わかってる。どうぜトラビスは、祝いの席を盛り上げる演出かもとかって思っているんだろう?」
ラウルは振り返らず、でも明るい声でそう言った。俺の手首を掴む手に力が入り少し痛い。明るく言ったのは、無理をしているんだとわかった。
「なんか……ごめん」
「いいんだよ。『断り難い雰囲気を作って圧し切っちゃえ』と思っていたのは本当だしね。トラビスは空気を読む子だから、言質さえ取っちゃえばなし崩しで結婚してくれるんじゃないかなーってさ」
「何でそんな。真面目に段階踏めばいいものを」
ため息混じりにそう言った時、ラウルの歩みが止まった。
目の前には住居スペースである二階に続く階段があり、一階はお店っぽい。大きな扉や店内が見えるはずの窓が全て閉まっていて、何の店なのかはわからなかった。
「こっちだよ」
引っ張る手を振り解けないまま二人で階段を上って行く。木製のドアを開け、ラウルが部屋に入った。森の中をたまに彷徨く魔物や迷い込んで来た獣くらいしか脅威の無い村だからな、鍵はかけていなかったみたいだ。
明かりの消える室内はとても暗くって内装もよくわからない。短い廊下を少し進むと居間があり、隣にももう一部屋か二部屋くらいありそうな感じだ。
二人掛けのソファーにテーブル。本棚が複数あるくらいで、家具は少なかった。ラウルにとって腰を据えての生活は初めてだろうから、これから色々揃えていく所なのだろう。
「シャワー浴びるよね。今用意するよ」
俺の手を離し、ラウルが浴室の方へ向かった。
「待てって、別にそんなのいいよ!」
ラウルについて行き、止めようと一緒に入る。浴室の前にある真っ白い脱衣場ははわりと広くって洗面台やタオルが数枚入る棚がある。浴室にはバスマットがすでに敷かれていて、お湯の用意さえ済んでしまえばすぐに体を洗えそうだ。
「汗っぽいまましたいの?んー!トラビスってホント意外とイヤラシイッ」
ピエロメイクのままの口元を両手で隠し、ラウルが『きゃー!』と言い出しそうに体を捻った。
「ちがっ!わかった、入るよ。入ればいいんだろう⁈」
半ばヤケになりながら返事をした。
「一緒に入るかい?」
ニッと微笑みながらとんでもない提案をされた。真っ白い顔に黄色で月と星の描かれた顔で淫靡に微笑まれると、自分はピエロ恐怖症じゃないはずなのにちょっと怖い。
「結構だ!先にお前だけ入って来いよ」
「だーめ。俺が先に入ったらその隙に逃げるだろう?一緒に入るか、トラビスが先に入ってよ。服を隠しちゃえば逃げられないから俺も安心できるしさ」
(服を隠すとか、そこまでするのかよ!)
どうにか現状を変えようとは確かに思っていたが、逃げるまでは考えていなかった。友人相手なのだし、そこまでして傷つけたくは無い。でも……『あぁ、その手があったね』とは、ちょっと思った。
「……わかったよ。先に入るから」
「うん、そうして。バスタオルはそこの棚にあるのを使って」
「あぁ」
俺が短く答えると、ラウルが脱衣場から出て行ってくれた。
服を脱ぎ、籠に放り込む。タイル張りの浴室内に入ると案外広くってビックリした。浴槽は男二人でだって入れそうだ。
(……まさか、わざわざリフォームしたのか?)
レバーを捻り、シャワーのお湯を出す。頭から大量のお湯を浴びながら思った、『俺、何で人ん家で体洗ってんだろ?』と。
でもまぁ入ったからにはとボディータオルを手にとって石鹸を使い、体を洗う。どこまで洗うもんなんだろう?髪も洗うべきなのか?
(ってか……本当に、するのか?)
「……でも俺、何していいのかわかんないんだけど」
腕や脚を洗いつつ、ボソッと呟いた。それなりにいい年なのに、機会が無かったからこういった経験は一度も無い。『嫁さんを貰えたら、まぁする事になるんだろうなぁ』くらいの行為だったものがいざ目前に迫ると少し焦りが出てきた。
「式も挙げてないし、籍だって入れてないのに……?」
(やっぱ、するべきじゃ無いよ。どうにかラウルを説得して、お互いの気持ちをまずは確認しよう。じゃないと先に進むべきじゃ無い。……そうだ、そうしよう)
そう思い、シャワーヘッドから出しっぱなしになっているお湯を頭から浴びたまま何度も頷く。祝いの席のハイテンションのまま流されるなんてどうかしてる。ここはまず友人関係から恋人関係を経て、夫婦になるべきだ。色々すっ飛ばしていきなり初夜とか、いくらなんでも——
「もう洗い終わったかい?」
色々悶々と考え事をしていたら、いきなりドアが浴室の磨りガラスのはめ込まれたドアが開いて、ラウルが入って来た。
「んなっ!ま、待ってろって!まだ——何でお前まで裸なんだよ!」
洗面台で落としたのか、顔の化粧はもうしていない。綺麗な顔立ちが褐色の肌によく似合い、脱いだら意外に筋肉質で、引き締まった体は頭身が高い。魔法使いのくせに手品師の真似事などせずとも、この容姿だけで十分食べていけそうだ。
「乱入しないとは言ってないからね。待ってる時間も勿体ないしさ」
そう言うなりラウルが俺の首に腕を回し、縋り付くような体勢で抱きついてきた。
「は、離せって!は、裸のまましがみつくな!」
シャワーから絶え間なく出続けるお湯を浴び、二人共びしょ濡れになる。ラウルの黒く長い尻尾が俺の脚に絡みつき、やわやわと撫でられて背中がザワッとした。
「……んー、裸を見せたくらいじゃダメかぁ」
下を見てガッカリされた。何を見て、何を思ったのか……何となくわかるけど、知りたくない。
「お、お、お前だって!」
お互い様だろ?何だかんだ言って、お前の体だって別にする気なんか無いんじゃないか。
「あぁ、俺のコレは抜いてきたからね。興奮し過ぎて夫をレイプーなんて、シャレにならないからさ」
ポッと顔を赤くし、ラウルが俺の首にチュッとキスをしてきた。
「レイ……え?抜い……は?」
聞こえた言葉の意味が処理出来ず、キョトンとした顔をしてラウルの方へ顔を向けた。俺と目が合った途端ラウルは八重歯を見せつつニィと笑い、頭にある俺の耳にカプッと噛み付いてきた。腕や胸に手が近づき、優しく撫でられたりまでされた。
「うぁっ……な、何して……やめっ」
甘噛みなんか始めてされて、腹の奥がズクンと疼いた。マズイ……きちんと話さないといけないのに、それどころじゃなくなる。
ラウルの肩に手を置いて引き離そうと押してみたが、全然ビクともしなかった。
「耳……弱いんだ?」
吐息混じりで耳元で囁かれ、ビクッと肩が震えた。全身にヘンな力が入るくせに、ラウルを押し返そうとする腕には力が入らない。
「か、噛むなって……そんなとこ、ろ触った……り、とか、もっ」
「んー?こんなところって?」
こっちかな?それともこっち?と問いかけるような笑みを浮かべながら、指先で胸の尖りをスッと撫でられた。
「んあっ!」
嬌声がもれ、俺は慌てて口元を引き結んだ。
「……おぉー。やった」
嬉しそうな声でラウルがそう言ったが、何が嬉しいのかわからない。
「トラビスが感じやすい体で良かったよ」
脚に絡んでいた尻尾が離れ、俺のイチモツを撫でてくる。それでやっと、ガッチガチに勃起してしまっている事に気がついた。
「やめ……こんな事、しちゃダメだろ……んあ!」
尻尾で屹立の根元を掴み、手で扱かれる。水に濡れる俺の髪を軽くかきあげると、否定の言葉を遮る様にラウルが口付けをしてきた。
「んんっ⁈」
唇の隙間に舌が割り込み、中に入ってくる。熱い舌が口内を隈なく撫で、逃げる俺の舌を追いかける。キスのせいでトロンと脳髄まで溶けて体がタイル張りの床に崩れそうだ。
下からも上からもグチュグチュと水音がたち、快楽の沼に追い立てられる。
「気持ちいい?でも、今はいっちゃダメだよ」
パッと屹立から手を離されて膝から力が抜ける。その場に座りそうになったが、ラウルに抱きとめられた。
「ベッドに行こうか。トラビスだって、続きがしたいだろう?」
絶対に受け入れちゃいけない言葉だって頭ではわかっているのに、理性の吹っ飛んだ俺の体は素直に頷いてしまった。
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コメント
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読み終わりました!もうラウルの強引さとトラビスの戸惑いの対比がたまらなくて…「抜いてきたから」って台詞に思わず笑っちゃいました(笑)。耳を噛まれるシーンの描写がすごく生々しくて、トラビスの理性が溶けていく感覚が伝わってきました。このまま流されちゃいそうで、続きが気になります…!