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洗濯機が止まった音で、真白は顔を上げた。
「……終わったか」
在宅の日でもない。
ただ、今日は早く帰ってきた。
洗濯機の蓋を開けて、中を覗く。
白と黒とグレーが、適当に絡まっている。
真白は一瞬考え、全部まとめて取り出した。
干す場所は、いつも決まっている。
リビングの一角、日が当たるところ。
ハンガーを取り、淡々と作業を進めていると、玄関が開く音がした。
「ただいま」
「……おかえり」
アレクシスは靴を脱ぎながら、リビングを見て足を止めた。
「……それ」
「洗濯物」
「見れば分かるけど」
「干してる」
「うん」
数秒、黙る。
「……そのシャツ、裏返ってない?」
真白は一枚手に取り、ちらっと見る。
「裏だね」
「直さないの?」
「干せば乾く」
「機能的にはそうだけど」
アレクシスは苦笑して、近づいてくる。
「タグが当たって、型崩れする」
「そんな繊細な服だった?」
「俺が繊細」
「知ってる」
真白は言い切る。
アレクシスは、裏返ったシャツを直しながら言った。
「真白は、こういうとこ雑だよね」
「必要十分」
「最低限とも言う」
「過不足なし」
「言い換えが多い」
真白は無言で次の洗濯物をハンガーにかける。
それはアレクシスの靴下だった。
左右が揃っていない。
「……それ、ペア違い」
「履ける」
「色」
「見えない」
「見える」
「気にしすぎ」
アレクシスは、ため息をつく。
「仕事でもそう?」
「何が」
「最低限で済ませるとこ」
真白は少しだけ考えてから答えた。
「仕事は別」
「即答だ」
「生活は多少ズレても困らない」
「仕事は?」
「ズレると、全部壊れる」
アレクシスは、その言い方に少しだけ真面目な顔になる。
「……プロだね」
「給料もらってるから」
「夢とか情熱とかじゃなく?」
「それはある。でも、理由は後付け」
真白は洗濯物を干し終え、ハンガーを戻す。
「暮らしは雑でいい」
「俺は?」
「例外」
「雑に扱われてない?」
「扱ってない」
「丁寧?」
「俺なりに」
アレクシスは少し笑った。
「じゃあ、靴下は揃えてほしいな」
「検討する」
「前向きじゃない」
「努力目標」
二人で並んで洗濯物を見る。
微妙に統一感がない。
でも、ちゃんと乾きそうだった。
「まあ、いっか」
アレクシスが言う。
「うん」
真白も頷く。
暮らしは雑で、会話は噛み合っていなくて。
それでも、日常としてはちょうどいい。