テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#明太子に食われる鈴木
明太子に食われる鈴木
871
洗濯機が止まった音で、真白は顔を上げた。
「……終わったか」
在宅の日でもない。
ただ、今日は早く帰ってきた。
洗濯機の蓋を開けて、中を覗く。
白と黒とグレーが、適当に絡まっている。
真白は一瞬考え、全部まとめて取り出した。
干す場所は、いつも決まっている。
リビングの一角、日が当たるところ。
ハンガーを取り、淡々と作業を進めていると、玄関が開く音がした。
「ただいま」
「……おかえり」
アレクシスは靴を脱ぎながら、リビングを見て足を止めた。
「……それ」
「洗濯物」
「見れば分かるけど」
「干してる」
「うん」
数秒、黙る。
「……そのシャツ、裏返ってない?」
真白は一枚手に取り、ちらっと見る。
「裏だね」
「直さないの?」
「干せば乾く」
「機能的にはそうだけど」
アレクシスは苦笑して、近づいてくる。
「タグが当たって、型崩れする」
「そんな繊細な服だった?」
「俺が繊細」
「知ってる」
真白は言い切る。
アレクシスは、裏返ったシャツを直しながら言った。
「真白は、こういうとこ雑だよね」
「必要十分」
「最低限とも言う」
「過不足なし」
「言い換えが多い」
真白は無言で次の洗濯物をハンガーにかける。
それはアレクシスの靴下だった。
左右が揃っていない。
「……それ、ペア違い」
「履ける」
「色」
「見えない」
「見える」
「気にしすぎ」
アレクシスは、ため息をつく。
「仕事でもそう?」
「何が」
「最低限で済ませるとこ」
真白は少しだけ考えてから答えた。
「仕事は別」
「即答だ」
「生活は多少ズレても困らない」
「仕事は?」
「ズレると、全部壊れる」
アレクシスは、その言い方に少しだけ真面目な顔になる。
「……プロだね」
「給料もらってるから」
「夢とか情熱とかじゃなく?」
「それはある。でも、理由は後付け」
真白は洗濯物を干し終え、ハンガーを戻す。
「暮らしは雑でいい」
「俺は?」
「例外」
「雑に扱われてない?」
「扱ってない」
「丁寧?」
「俺なりに」
アレクシスは少し笑った。
「じゃあ、靴下は揃えてほしいな」
「検討する」
「前向きじゃない」
「努力目標」
二人で並んで洗濯物を見る。
微妙に統一感がない。
でも、ちゃんと乾きそうだった。
「まあ、いっか」
アレクシスが言う。
「うん」
真白も頷く。
暮らしは雑で、会話は噛み合っていなくて。
それでも、日常としてはちょうどいい。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!