テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
真白はキッチンカウンターにノートPCを置いたまま、しばらく画面を見ていた。
手は動いていない。
ただ、視線だけが一点に留まっている。
「……真白」
アレクシスが声をかける。
「ん」
「止まってる」
「考えてる」
「それ、もう十分考えた顔」
真白は小さく息を吐いて、キーボードに触れた。
数行スクロールして、一行だけ消す。
そして、別の一行を打ち直す。
「今ので終わり?」
「一旦」
「一旦って便利な言葉だね」
「現実的な言葉」
真白はカップを手に取って、冷めかけたコーヒーを飲む。
「今日、在宅じゃなかったよね」
「本当はね」
「じゃあ、なんで?」
「急に仕様変わった」
アレクシスは眉を上げる。
「急に?」
「よくある」
「振り回される側?」
「振り回されるけど、放置もしない」
「……放置しないのは偉い」
「偉くない。間に合わなくなる」
真白は淡々としている。
愚痴でも自慢でもない、事実だけ。
「楽しい?」
アレクシスが聞く。
真白は少しだけ考えた。
「楽しいって言葉、あんまり使わない」
「じゃあ、嫌?」
「嫌でもない」
「難しいな」
「うん」
真白は画面を閉じ、椅子に深く座り直す。
「ちゃんと動くと、安心する」
「ゲーム?」
「仕事」
「完成したとき?」
「途中でも。ズレてないって分かると」
アレクシスは、なんとなく分かった気がして頷く。
「人より、仕組みと話してる感じ?」
「近い」
「人間関係は?」
「必要」
「好きではない?」
「嫌いでもない」
真白は言葉を選ぶ。
「人は揺れる。仕様も揺れる。でも、直せる」
「人も直す?」
「直せない」
「諦め?」
「受け入れ」
アレクシスは少し笑った。
「真白らしい」
「そう?」
「うん。冷たいようで、ちゃんと責任感ある」
「冷たいは余計」
「褒めてる」
「半分」
真白は肩をすくめる。
「仕事は、やれば終わる」
「関係は?」
「終わらせない前提」
「重いな」
「仕様だから」
アレクシスは吹き出した。
「それ、俺との関係にも適用?」
「当然」
「バグったら?」
「修正する」
「一行で?」
「無理なら、全部書き直す」
アレクシスは少しだけ真剣な顔になる。
「それ、時間かかるやつ」
「でも、やる」
真白はそう言って、もう一度PCを開いた。
仕事も、生活も。
雑なところと、譲らないところ。
その線引きは、彼の中では明確だった。