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教室に張り詰めた空気が流れる。遥が何度も言いよどむたび、加害者たちの顔から笑みが消え、代わりに苛立ちが露わになっていく。
「おい……いつまで黙ってんだよ」
椅子の背にふんぞり返ったひとりが、机をドンと蹴った。音にビクリと肩を震わせる遥。
「……だ、だから……昨日は……」
「だから何だよ。『首を触れられた』? 『押さえつけられた』? そんな断片だけ聞いて、俺たちが納得すると思ってんのか?」
別のひとりが笑いもせずに吐き捨てる。周囲は沈黙。視線が一斉に遥に突き刺さる。
「お前が言わねえなら……明日あたり、日下部に“同じこと”してやろうか?」
その一言に、遥の心臓が大きく跳ねた。
「や、やめろ……!」
思わず声が裏返る。
「じゃあ話せよ。細かく。声の出し方も、何をされたかも、どんなふうに感じたかも。お前が口を開かねえなら、日下部に興味移すだけだ」
脅しは冷淡で、確実に遥の逃げ道を塞いでいく。
「……晃司は……俺を……布団に押し倒して……」
声が震え、喉がつぶれそうになる。
「もっとはっきり!」
「……押さえつけて……首を……強く……掴んで……息が……できなくて……」
遥は涙で声を震わせながら吐き出す。手が勝手に首元を押さえていた。
「へぇ。それで?」
「……耳元で……“声出すな”って……笑って……。俺が……少しでも動くと……強く締めて……」
視界が歪む。笑い声が重なり、加害者たちの顔がにじんだ。
「続けろ。晩飯の後だろ? お前の家はそういう時間に“儀式”があるんだよな」
「……食器の音がまだ残ってるのに……俺だけ……部屋に連れてかれて……」
遥は吐き出しながら、胃の奥がひっくり返る感覚に襲われた。
「晃司が……膝で俺の腕を押さえて……颯馬が横で……笑ってて……。俺は……声を殺して……布団の匂い嗅いで……震えてた……」
震えが全身に広がる。加害者たちの視線がそれを飲み込み、冷たい静寂が教室に広がった。
「そうそう、それだよ。そうやって最後まで吐け」
「……俺が……“やめて”って言ったら……笑いながら……『お前が弱いからだ』って……」
その言葉を吐き終えると、教室の空気がざわめきに変わった。誰かが「点数高ぇな」と紙に書き込み、また誰かが「十分なネタだ」と満足げに笑う。
だが、遥は膝を抱えて崩れ落ちるように机に突っ伏した。
(……これ以上……日下部に……関わらせちゃ……だめだ……俺だけで……全部……)
声にならない誓いが胸の奥で蠢き、涙で濡れた紙の上に滴り落ちた。