テラーノベル
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部屋に入ってきた瞬間から、その子は自分を消そうとしていた。 足音を殺し、視線を落とし、椅子の端っこに座る。まるで、そこに座る資格すらないと信じきっているみたいに。
「……私、なんで生まれたんですかね」
第一声から、ためらいがなかった。
「なんでって……」遥は眉を寄せる。
「誰がそんなこと言った」
「誰も言ってないです。……でも、全部そう思わせるんです」
彼女は指先をいじりながら、ぽつりぽつりと言葉を落とす。
「何をしても、邪魔になる。笑っても怒られるし、泣いても嫌われる。……だったら、いないほうがいいじゃないですか」
遥は、しばらく黙ってその顔を見た。
「……俺もそう思ってた時期、ある」
その声は低く、押し殺すようだった。
「でも、いないほうがいいって思うのって、自分のせいじゃなくて……周りがそう仕組んでくるからなんだよ」
「仕組む……?」
「そう。お前がそう思い込むまで、ずっと少しずつ、押しつける。無駄だって言葉や態度で。……俺は今もやられてる」
彼女の目がわずかに揺れた。
遥は淡く笑い、しかしその笑みは温度を持たなかった。
「だから、生まれた意味なんて、考えなくていい。……生きてる意味は、勝手に探すもんだろ」
その言葉が救いになるかどうかは、遥にもわからなかった。
ただ、この部屋の外では、今日も同じ仕組みが息をしていることだけは確かだった。
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