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放課後の教室。

まだ笑い声が収まりきらない輪の中、遥はうなだれたまま息を乱していた。日下部は荒く肩を上下させ、机を揺さぶるように身をよじる。だが加害者たちは、その抵抗すら「余興」に変えて嗤うだけだった。


ガラリと後ろの扉が開く。


「……賑やかだな」


一歩足を踏み入れたのは担任の男――教師だった。

誰かが「先生!」と呼ぶが、そこに救いを求める響きはない。むしろ舞台に主役がそろったかのように、輪の空気が引き締まった。


教師は黒板に目をやり、「経験談」と書かれた文字を鼻で笑う。


「ほう……楽しそうじゃないか。で、もう終わったのか?」


「いや、ちょうど盛り上がってるとこです」


「なら続けろ。ただし――俺にも聞かせろ」


ぞっとする沈黙。遥の指先が震え、日下部の眼が怒りに燃える。だが次に響いたのは、教師の冷たい声だった。


「……遥。さっきの話、日下部の前で“確認”してやれ」


「やめろ……!」


日下部が唸る。

しかし教師は微笑を崩さず、問いを突き刺す。


「口でやった、と言ったな。お前の隣にいる“親友”の耳にも、はっきり聞かせてやれ。どんな情けない顔でしゃぶっていたのか、どんな音を立てていたのか……全部な」


「……っ」


遥は喉を詰まらせる。唇が開かない。


「黙るか?」


教師の声が鋭さを増す。


「なら日下部に触れるしかないな」


その一言で、遥は膝を抱くように小さくなった。


「……無理やり……やらされた……何度も」


「それだけか?」


「……っ……しゃぶらされて……吐きそうになって……」


「だが最後までやったんだろ?」


「……やらされた……」


言葉を絞り出すたび、日下部の顔が苦悶に歪む。

加害者たちの笑いに混じって、教師の低い声が響いた。


「――日下部。どうだ? 大事な友達がこんなことしてたと知って、嬉しいか? 軽蔑するか?」


「くだらねぇ……そんなの……」


「答えになってないな。正直に言え。お前はどう感じてる?」


日下部は睨み返すが、後ろから押さえ込まれ動けない。歯を食いしばる音だけが虚しく響く。


教師はその姿に満足したように口角を吊り上げた。


「なるほど。なら次は“比較”だな」


チョークを手に取り、黒板に新たな文字を書き殴る。


――『友情と裏切り』。


ギィ、とチョークの粉が落ちる音。


「明日はこれでいこう。お前ら二人に、どっちが“本物の友達”か証明させてやる」


「……証明、って……」


遥がかすかに声を漏らす。


「簡単な話だ。どっちがより相手を裏切れるか、だ」


爆笑がまた教室を揺らす。


「おい最高じゃん!」


「遥と日下部、どっちが先に折れるか勝負だな」


遥は膝を抱えたまま、ただ視界を伏せる。

日下部の横顔は怒りに燃えていたが、同時に深い混乱と絶望が見え隠れしていた。


教師は満足そうに両手を叩いた。


「今日は解散だ。よく笑わせてもらった。……だが明日からが本番だぞ」


黒板に残された「友情と裏切り」の文字。

それが、二人に逃げ場のない“次の地獄”を約束していた。


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