テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「やっほー、センセー!」
蓮司の前に現れたのは、制服のスカートを規定よりも短く折り曲げた三人組の女子だった。ツヤのある髪、ばっちり盛られたまつげ。教室ではいつも中心にいて、遥や日下部に笑顔で毒を浴びせかけていた彼女たちだ。
「……いや、俺、先生じゃないけど」
蓮司は机の上に足を投げ出したまま、手元のスマホから視線を上げることもなく言った。
「いいじゃーん、蓮司ってさ、なんか話しやすいし? それに今日ちょっと聞いてほしいことあるんだよね〜」
ひときわ目立つ女子――咲良が、ソファにふわりと腰を下ろした。脚を組み、爪先をゆらゆらと揺らす。その隣に、やや控えめな愛美と、無表情に近い佳歩が座る。
「ほぉ、陽キャ三人衆が、俺に相談? 珍しい」
「陽キャって何それ〜、ウケる。てか、そういうとこなんだよね」
咲良は蓮司をじっと見て、笑うでもなく首を傾げた。
「うちらさ、正直、楽しいはずなのに、最近なんか、つまんないんだよね」
「じゃあ辞めれば? “楽しいフリ”」
その言葉に、咲良のまつげが一瞬だけ揺れた。
「は?」
「周りが笑ってるから、自分も笑ってなきゃいけない。自分だけ沈んでたら“変な空気”になる。だから、誰かを指差して、みんなで笑う。そうすると、自分が正しい気がする。……でも、結局、自分の声ってどこにも届いてない。そういうやつでしょ?」
「……は? 何それ。違うし。全然、違うし」
咲良は笑って返したが、その笑いにハリがなかった。
「ねえ、愛美は?」
蓮司が視線を向けると、彼女は俯いたまま、かすかに唇を噛んでいた。
「私……。なんか最近、あの子たちのこと、夢に出てくるの。遥とか……日下部くんとか……。顔とか、声とか。なんか、笑ってないの。ずっと見てくる。何も言わないで」
「へぇ。罪悪感ってやつかな」
蓮司は軽く口笛を吹く。
「でもさ、罪悪感ってのは“立場が安全なやつ”が持つ贅沢だよ。どうせ明日も、君らはあいつらを笑うだろ?」
佳歩が、やっと口を開いた。
「……ねえ、蓮司くん。もしうちらが泣いて謝ったら、許してくれると思う?」
蓮司は、はじめて三人を正面から見た。瞳の奥に、かすかに冷たい光を宿して。
「許されたいの? へえ。思ったより“普通”なんだな。……君らが思ってるより、あいつらは、君らを覚えてないと思うよ。痛みって、簡単に“記憶”に変わるもんじゃないから」
沈黙が落ちる。
咲良はふいに立ち上がり、無理に明るい声で言った。
「ま、いっか。なんかスッキリしたし。ね、行こ!」
「うん……」
三人が去ったあと、蓮司は再びスマホを手に取り、ふうとひとつため息をついた。
「まぶしい子ほど、目が焼けるって言うけど……」
その言葉は、誰にも届かないまま空気に溶けていった。