商店街の夏祭りは、夜になっても人であふれていた。
焼きそばの香り、金魚すくいの水音、そして子どもたちの歓声。
その奥に、期間限定の「お化け屋敷」の提灯がぼんやりと揺れている。
「肝試しかぁ。おもしろそう!」
大地が目を輝かせる。
「余裕だろ」
隼人は腕を組み、どこか得意げだ。
「じゃ、先頭ね?」
と柊がさらり。
「もちろん」
隼人が胸を張る。
しかし――。
薄暗い廊下に足を踏み入れた瞬間、隼人は大地の腕をがっちりつかんだ。
「え、ちょ、隼人?」
「べ、別に怖くないし!」
声が半オクターブ上がっている。
「怖くない人はこの握力じゃないよ!?」
大地が必死でツッコむが、隼人の指は離れない。
背後で萌絵が小声で興奮。
「公式距離、ゼロセンチ……!」
「これ以上ない現場だな」
涼も冷静にメモを取っている。
曲がり角。
突然、白装束の“何か”が飛び出した。
「うわっ!」
隼人が反射的に飛びのく。
「ぎゃー!」
大地も同時に跳ね上がる。
二人はそのまま、お互いの肩に頭をぶつけて転げた。
「いってぇ!」 「痛っ!」
「今の完璧にカップリングの絆創膏案件」
萌絵はスマホを握りしめ、涼は「尊い」と一言。
さらに奥で物音。
柊がニヤリと笑って走り出す。
「こっちは俺に任せろ!」
だが次の瞬間、背後から別の着ぐるみお化けが飛びついた。
「ぅわあああああ!?」
今度驚いたのは柊。
「お前が一番声デカいじゃん!」
大地がツッコむ。
出口を抜けるころには、全員息も絶え絶え。
外の夜風がやけに涼しく感じる。
「ぜ、全然怖くなかったし」
隼人はまだ大地の腕をつかんだまま、必死の強がり。
「その状態で言う? 離して」
「……や、やだ」
「なぜ!?」
萌絵は頬を染めて震え、涼は淡々と締めくくった。
「公式。確定」