テラーノベル
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「……やっぱりさ、普通じゃないよね」
誰かが、空気を割るみたいに言った。
それだけで十分だった。
「だってさ、あの反応。気持ち悪くない?」
「普通ならもっとさ、こう……嫌がるとか、泣くとかあるでしょ」
「無言で立ってるの、逆に怖いんだけど」
遥は俯いたまま、何も言わない。
(まただ)
(“普通”)
(その言葉、何回目だ)
大人が続ける。
「感情がないみたいなのよ、この子」
「注意しても響かないし」
「育てにくいって、こういうこと」
ため息。
“困ったものを見る目”。
それは怒りじゃない。
嫌悪ですらない。
分類。
「ほら、普通の子ならさ」
「空気読むでしょ」
「周りに合わせようとするでしょ」
「なのに、この子は――」
言葉が一瞬止まる。
そして、決定打。
「……ズレてるのよ」
遥の胸の奥で、何かが静かに折れた。
(ズレてる)
(だから、殴られてもいい)
(だから、責められてもいい)
(だから、笑われてもいい)
全部、一本の線で繋がってしまう。
いとこが、わざとらしく肩をすくめる。
「自分が変だって、自覚ないのが一番やばいよね」
「ね、言ってあげてるだけ親切じゃん」
兄弟は何も言わない。
否定もしない。
肯定もしない。
ただ、“それを前提として扱う”。
それが一番残酷だった。
「普通じゃないからさ」
「説明しても無駄なんだよ」
「わからないんだから」
遥は、喉がひりつくのを感じた。
(わからないんじゃない)
(わかってる)
(わかってるから、何も言えない)
でも、その言葉は口に出ない。
出した瞬間、
「ほら、やっぱり普通じゃない」
そう言われる未来が、もう見えている。
「怖いのよ、この子」
「何考えてるかわからなくて」
「だから、ちゃんと“矯正”しないと」
矯正。
躾。
教育。
全部、同じ意味に聞こえた。
遥は、自分の手を見た。
震えていない。
(泣いてない)
(叫んでない)
(抵抗もしてない)
(……やっぱり、普通じゃないのか)
そう思った瞬間、
胸の奥に残っていた最後の“疑問”が消えた。
怒りも、反論も、
「おかしい」という感覚も。
代わりに残ったのは、
(普通じゃないなら何をされても仕方ない)
その結論だけ。
誰かが言った。
「まあ……そういう子なんだよ」
それで、全部終わった。
遥はその場に立っていた。
人の形をして。
でも、
誰の中にも「人」としては存在していなかった。
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