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そのころ、仕事帰りの紗英は、手持ちぶさたにカフェで時間をつぶしていた。
さきほど駿介の家に寄ってみたものの、留守だった。
連絡してから行けば、この前のように断られる可能性がある。だから合い鍵で勝手に入ったのだが――部屋は散らかり放題で、見るだけで気分が悪くなる有様だった。
(夏帆先輩なら、奥さんみたいに全部きれいに片づけてあげるんでしょうけど、私は家政婦みたいな妻になるつもりなんてないの! だから今のうちに、ちゃんと躾けておかなくちゃ!)
そう思いながら、紗英は綺麗に塗られたネイルをうっとり眺めた。
会社では派手なネイルは禁止だが、最近駿介に雑に扱われてストレスが溜まっていたため、あえて派手なデザインにしてもらったのだ。
(あ~あ……駿介さんも思ってた感じと違ったし、男選び、ミスったかな~)
心の中でぼやいていると、ようやく待っていた夏帆からの返信が届いた。
紗英はどんな反応が返ってきたのかうきうきしながら画面を開いたが、読み終えると途端に眉をひそめた。
(何よこれ……やんわり嫌味を込めたのに、全然堪えてないじゃない。つまんない! それに、はあ? この店のシチュー、何? ハードル高すぎて絶対無理! こんなの作れるわけないじゃない)
イライラはますます募る。
(あ~もうっ! 私より幸せそうにしていたあの女が不幸になるのを見るのが快感だったのに、全然堪えてないじゃない。むしろ余裕すら感じる……いったいどういうこと? まさか、新しい男ができたとかじゃないでしょうね)
苛立ちが限界に達した紗英は、夏帆の今の生活をそれとなく探ってみようと心に決めた。
――そして二日後。
いよいよ夏帆の面接の日が訪れた。
受ける会社は“Transparent Investment”――そう、透也の投資会社だ。
もちろん、夏帆はまだ知らない。
黒のパンツスーツに身を包んだ夏帆は、背筋を伸ばし、大きなビルの中へ入っていった。
エレベーターで最上階へ向かう間、心臓は激しく音を立てている。
(えーい、もうここまで来たらなるようになれ! ケセラセラだわ!)
腹を括った夏帆は、最上階に着くと緊張した面持ちで受付へ向かった。
受付を済ませると、夏帆は面接を待つ人たちが並ぶ椅子へ案内された。
そこには、めいっぱいおしゃれをした女性たちがツンとすまして座っている。
人数は二十名ほど。
どの女性もモデルのように美しく、スタイルがいい。
女性らしさを強調するぴったりしたスーツに身を包み、華やかな香水の香りが辺りに重たく漂っている。
(うへぇ……)
香水のきつい香りが苦手な夏帆は、吐き気をこらえながら一番隅の椅子へ向かった。
彼女たちの前を通った瞬間、刺すような視線がいくつも突き刺さった。
だが、すぐに興味を失ったように、すっと視線が外される。
(地味なこの女はライバルじゃない……って思われてそう)
敵対視されるよりは気が楽だったので、夏帆は少しホッとした。
そのとき、受付の女性が次の番の女性の名を読み上げた。
呼ばれた女性はすっと立ち上がり、モデルのような歩き方で面接室へ消えていく。
(はぁ~、歩き方まで本物のモデルみたい。これじゃあ、まるで芸能事務所かなんかの面接じゃない……)
華やかな女性たちをちらりと見ながら、夏帆はそう思った。
その一方で、総務・秘書兼務の地味なIR部の募集なのに、どうしてこんなにも美女ばかり集まっているのか――その理由がまったく分からず、首をかしげる。
そこで夏帆は重大なミスに気づいた。
(やばっ! 社長について調べようと思っていたのに、うっかり忘れてた……どうしよう……)
今、この場でスマホを開けばすぐに確認できる。
しかし、目の前に係の女性がいるため、堂々と取り出すわけにもいかない。
(あ~っ、私ったらバカバカ! なんて基本的なことをうっかり忘れちゃってたの! これも駿介のせいよ! あの日調べようと思ってたのに、あいつが家まで押しかけてくるから! どうしよう……トイレに立つふりして調べる?)
そう考えたが、来たばかりで席を立つのは印象が悪い。
夏帆は仕方なく諦めた。
その直後、面接室に入った女性が、五分も経たずに戻ってきた。
(え? たった数分なの?)
次の女性も、やはり数分で戻ってきたので、夏帆は唖然とした。
ほとんどの女性が五分以内に出てくるのを見て、夏帆の頭は社長の名前うんぬんよりも、いかに短時間で自分をアピールできるかという難題へと切り替わっていた。
そうしているうちに、夏帆の名前が呼ばれた。
緊張した面持ちで立ち上がる。
(いいわね、夏帆! この面接に受かるかどうかで、今後のあなたの未来が変わるのよ。しっかり頑張って!)
自分を励ましながら、夏帆は一歩足を踏み出す。
「では、面接室にお入りください」
「ありがとうございます」
案内の女性に礼を言い、夏帆は背筋を伸ばしてドアをノックした。
「失礼いたします」
部屋に入ると、面接官が三人いるのが視界に入った。
夏帆は目を伏せ気味に椅子まで進む。
「どうぞ、おかけください」
「失礼いたします」
椅子に腰を下ろし、前を見据えた――その瞬間。
真正面に、隣人の透也が座っていた。
夏帆は息を呑み、驚きのあまり大きく目を見開いた。
(ええっ! なんで彼がここにいるの!?)
心の中でそう叫びながら、夏帆の体はその場で固まった。
視線をそらすこともできず、驚愕の表情のまま透也を見つめる。
静まり返った面接室では、夏帆の心臓の鼓動だけがやけに大きく感じられた。
コメント
45件
また遅れちゃいました😓 夏帆ちゃんケセラセラ!!笑 どんな反応をするのか楽しみです✨️ 見てきまーす!!

(笑)楽しみすぎる
ようやくこの日が✨️ 夏帆ちゃん、まさかの透也さんにびっくりだね(˶ˆ艸ˆ˵ )フフフ あー明日の更新が待ち遠しい (っ ॑꒳ ॑c)ワクワク