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「わかんねえなら、いい」
吐き捨てた遥の声は、あまりにも淡々としていた。
日下部はしばらく黙り込んだ。怒鳴り散らす衝動が喉まで上がっていたのに、言葉にならなかった。
やっと吐き出したのは、低い、抑えきれない声。
「……ふざけんなよ」
遥の視線がかすかに揺れる。日下部はその目を射抜くように見据えた。
「勝手に殴られて、勝手に壊れて、勝手に『どうせ』とか決めつけて……。俺のこと何だと思ってんだよ」
怒鳴り声ではなかった。冷えた声だった。
遥は瞬間、殴られるよりも強い衝撃を覚えた。
「……お前の全部、俺が背負えるなんて思ってねぇよ。そんなの無理だろ」
淡々とした口調に、ひどく残酷な現実が滲んでいた。
遥の胸がざわついた。
(ああ、やっぱり。俺なんか、守られない)
その予感が現実として形を取り始める。
日下部は視線を逸らし、手を離した。
「……もう好きにしろよ」
遥の身体から支えが抜け落ちるように、その手は冷たく離れていった。
夜の路地に取り残され、遥は言葉を失った。
こんなにも予想していたはずの拒絶が、なぜこれほど痛いのか。
胸の奥で、ちいさく笑いが漏れた。
「ほらな……結局、そうだろ」
誰に聞かせるでもない声。
それは、自分を壊すための証拠のように夜に滲んで消えた。